
福島県の甲状腺検査
2巡目の13市データを分析した。地域差はある。ただし、それは
放射能汚染と相関してない。ここにあらわれた地域差は、放射線被ばくの多寡によって生じたのではなく、細胞診実施率、年齢構成、1巡目からの経過時間など複数の要因で生じたとみられる。
2巡目は、2014-2015年度の2年にわたって一次検査を実施した。その間に、福島県と福島県立医大は細胞診の実施を徐々に減らす方針をとった。原発事故から時間がたったため、受診者が進学や就職のために移動した効果もあろう。また、1巡目は2011-2013年度の2年半に渡って一次検査を実施したため、地域によって1巡目からの経過時間が異なる。このような複数の要因で2巡目の結果に地域差が生じたとみられる。

福島県内13市の2巡目がん率(対10万人)を地図に赤字で示した。黒字は1巡目のがん率(こちらは年齢補正してある)。1巡目と2巡目に相関はない。放射能汚染との相関も認められない。
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1巡目の検討結果
不利益が利益を上回る過剰診断などという一般には難解な概念をわざわざ持ち出す必要はない。福島県甲状腺検査の矛盾は明らかだ。被ばくのせいでないがんがたくさんみつかったのなら、みつけてはいけないがんをみつけたというわけだ。いままでみつけなくて何の支障もなかったがんだ。そういうがんを、被ばくしたからといって福島県の子供たちだけから無理矢理みつけて切り取ってよいものだろうか。他県では実施しない子供全員検査を、被ばくしたからといって福島県で実施してよいわけがない。
日本超音波医学会 ・第90回学術集会(2017年5月28日)抄録生存率の向上を目的とせず、被ばくの影響を見るために子供たちののどにメスを入れてよいと思っている。信じがたい倫理観の欠如だ。被ばくの影響は出てないのに100人以上の子供ののどを切って平気なのか。この記述を、のどを切られた子供たちが長じて知ったらいったいどう思うだろうか。
鈴木真一教授は、過剰診断の概念をまだ理解できていない。
福島県の子供全員甲状腺検査では、先行検査(1巡目、2011-2013年)で115人に甲状腺がんがみつかった。また途中だが、本格検査(2巡目、2014-2015年)では68人のがんがみつかっている。
先行検査でみつけた甲状腺がんは、2011年の原発事故前からあったがん、あるいは原発事故とは無関係のがんを、超音波検査によってみつけたと考えられる。本格検査でみつけたがんは、先行検査での見落としか、先行検査のあとの2年間に生じたがんだと思われる。しかし、それにしては数が多い。先行検査の半分以上ある。検査集団の加齢を考慮しても説明がむずかしい。
子供たちののどに超音波を照射した検査行為が甲状腺にがんを発生させたのではなかろうか。本格検査でがんが見つかった子供68人の先行検査結果を福島県が公表しているから、この仮説を検討してみよう。
表 先行検査と本格検査がんの関係
先行検査でA1は31人、A2は31人、Bは5人、受診なしは1人だった。先行検査でB判定(異常あり)だった274人に1人から本格検査でがんがみつかった。A1判定だった4061人から1人、A2判定だった3851人から1人、とくらべると10倍以上の割合だから、この結果はもっともらしい。
いっぽう、受診なしだった2万3784人からはがんが1人しかみつからなかった。この割合は、受診あり24万6647人から67人のわずか6分の1である。超音波検査を受診すると甲状腺がんになりやすいのではないかの疑いがここに生じる。
しかし、先行検査では24万6647人のうち115人にがんがみつかった。2145人に1人の割合である。先行検査を受診せず本格検査で初めて受診したひとの10倍の割合である。なにかがおかしい。先行検査受診なしの大半は、本格検査から対象になった低年齢児なのかもしれない。もしそうであれば、超音波検査のせい仮説は棄却される。
先行検査における対象者(平成 4 年 4 月 2 日から平成 23 年 4 月 1 日までに生まれた福島県民)に加え、本格検査では平成 23 年 4 月 2 日から平成 24 年 4 月 1 日までに生まれた福島県民にまで拡大した。(福島県)
やっぱりそうだ。原発事故時、胎児だった1学年を本格検査で追加してる。1学年だから2万人程度であろう。先行検査受診なしのほとんどは原発事故時、母親の胎内にいた子供であり、まだ幼くて甲状腺がんをり患していることがほとんどないからがん率が異常に小さいのだとわかる。超音波検査が甲状腺がんをつくった証拠は、まだない。
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第6回甲状腺評価部会(2015年3月24日)における春日文子委員の発言
(受けなくてもよかった手術を受けたことになるが、)それでもいまの検査体制を続けることの正当性は、二つの組み合わせでしか説明できないと考えています。
そのひとつは、事故の被ばくによって将来甲状腺がんが発生する可能性が否定できないということ。
二番目としましては、事故の影響として甲状腺がんが増加したかしなかったかを疫学的に検証し、県民そして国内外に示す必要があるということ。
この二つの両方を満たすことでしか、この検査体制を正当化できない。つまり、先ほど言いましたように二重のリスクを県民が負担しなければならないというこの状況を十分に説明できないと思うわけです。
このことをこの評価部会としてもしっかり認識した上で、それでも県民の皆さんに検査を続けていただきたいと思いますと責任を持って書くべきだと思います。
検査を続けてほしいという県民の声があることはもちろん受け止めますけど、それだけでは理由にならない。
また、不安解消のためにということもそれだけでは理由にならない。
きちんとリスク負担を県民に求めているものですよとはっきり責任を持って言った上で、それでもやはり検査は継続すべきだとこの評価部会としては考えますときちんと盛り込むべきというのが私の意見です。
甲状腺研究の推進のために福島県の子どもたちは犠牲になれと主張していると私は読んだ。リスク負担を強いていると読んだ。この春日発言はそのあとに続いた他の委員からも支持されて、この部会の最終意見となったようにみえた。さて、これは、はたして倫理的に許されることなのだろうか。 【“甲状腺検査を続ける理由”の続きを読む】
紀要論文「
福島第一原発2011年3月事故による放射能汚染と健康リスク評価」2014年3月
・100ミリシーベルトで0.5%ががん死。「致死量」は20シーベルト。
・1ミリシーベルトで寿命1日短縮。1シーベルトで3年短縮。
・1ベクレルで寿命1秒短縮。10万ベクレルで1日短縮。
・15億ベクレルでひとり死亡。
比較
・交通事故のリスクは1年あたり寿命1日短縮。80年なら80日短縮。
・ひとの一生は3万日。
【“放射能リスクの評価”の続きを読む】
「がん検診一般について言いますと、不利益が利益を上回るために受けないほうがいいと判断されているがん検診がいくつかあります。専門家の意見として、この検診は受けないほうがいいということも判断としてありうるというのを多くの方に知っておいてもらいたい。もちろん希望者の方に受けていただくのが、一番まあ、不安を解消するという意味ではいいかもしれませんが、そのことで、ご本人が理解されない範囲での不利益が生じる可能性があるということは専門家としてきちんと説明をしないと(いけない)。ただ単に希望者に受けていただくことは、あまり責任ある行為とはちょっと思えないような気がします。」祖父江友孝(大阪大学教授) 第11回あり方専門家会議(環境省、2014年9月22日)
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祖父江発言のYouTube動画頭出しいまの甲状腺エコー検査問題の本質を、祖父江さんが3ツイートの長さで的確に表現してる。
2014年8月24日、福島県が行っている子ども全員甲状腺エコー検査の1巡目の結果が報告された。検査は23年度から25年度まで、3年間かけて行われた。6月30日時点での集計だから、検査が最後に回った会津地方の結果がまだ完全には出そろっていないそうだが、大勢は判明している。いまこそがこの結果を検討するにふさわしいと考えた。
30万人を調べて福島県がみつけたがんは103例である。

23年度の受診率はどの年齢階層も7割を超えるが、25年度の受診率は高年齢でとくに低い。16-18歳は3割しか受診していない。甲状腺がんは年齢を重ねると急激に増える傾向があるから、(事故当時)
11-18歳だった受診者だけのがん割合を検査年度(すなわち地域)ごとに調べた。11歳未満のがん数は103例中わずか7例だから無視できる。103例すべてを11-18歳として扱って割合を計算した。
福島県2014年8月24日発表資料から

・がん数は11歳未満も含む。ただしそれは103例中、わずか7例である。
・16-18歳のがん率は11-15歳のそれの3倍だから、16-18歳受診者数の3倍と11-15歳受診者数の和を分母として割合2を計算した。
・データは福島県2014年8月24日発表資料から。
どの地域も、1万人あたりのがんは7~10人の中に入る。地域差は認めにくい。「25年度(それ以外)」は、放射能汚染が軽微だった会津と八溝である。この地域は今回の検査で対照群の役割を果たすだろうと当初から見込まれていた。今回得られた結果は、
弱汚染地域でも強汚染地域でも、がん割合が変わらないようにみえる。年齢効果を補正した割合2で比較すると、弱汚染地域である会津地方のがん割合が強汚染地域である浜通りのそれより高い。
福島県の子どもの甲状腺がんは、原発事故前からあったものが、精密なエコー全員検査をしたせいでみつかったと解釈するのが妥当である。こういった(自覚症状のない)潜在がんが子ども1万人に3~4人もある事実は、今回初めてみつかった。医学は進歩したが、その陰で、58人の子どもたちののどにメスが入れられた。手術はこれからも行われるらしい。
上の検討は原発事故から検査までに経過した時間を考慮していない。受診者が年齢を重ねたことによって増えたがんをここから差し引く必要がある。(検査が最後に回った会津と八溝でのその差し引き数は、検査未了のためこれから増える数と相殺する程度ではなかろうか。)
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福島県からの次の発表をいつも待っているだけではいけないと思って、1巡目で最終的にみつかる甲状腺がん数を反証可能なかたちで予想してみた。
二次検査の進みがまだまだの25年度は、年齢階層別の「がん/一次検査受診者」比を使って計算して積算した。がん率は年齢だけに依存して、
放射能汚染との相関はないとした予想である。がんは最終的には103人になる。
玄妙予想では104人になる。玄妙予想は、「がん/一次検査受診者」比の算出に24年度と25年度だけを使ったのと、事故時年齢ではなく検査時年齢を考慮した。2日前に公開した私の予想を改良したものである。

ここで予想したがん数は、26年3月31日までの1巡目でみつかるがんの数を言う。二次検査そして細胞診に進んで、がん判定が全部終わるのは27年3月頃になるとみられる。26年4月からすでに始まっている2巡目でみつかるがんの数は含まない。
現時点で言えること。25年度(いわき市以外)のがん数が最終的に16程度であっても、がん率に地域差があることにはならない。放射能汚染との相関があることにならない。会津地方は11歳以上の受診比率が他所より有意に少ないから、がん数が減っておかしくない。がん率は年齢に大きく依存する。高年齢はがん率が高い。
【結果判定】 合計103はピタリ当たったが、その内訳はやや外れた。ただし、その外れ具合は、がん率と放射能汚染に相関はないとした仮説を反証するほどではない(2014年8月24日)。
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