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早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

アサヒコムに駒の湯を襲った土砂くずれの詳細記事 

アサヒコムの今朝の記事『「山が崩れてきた」客が叫び声 駒の湯温泉その時』を読むと、駒の湯にいた人々が被災したときの詳細がよくわかる。

数分が経過しただろうか。「山が崩れてきた」と宿泊客が声をあげて引き返してきた。昭夫さんが外に出て沢向かいの山を見上げると、猛烈な土ぼこりが見えた。

 「これはまずい」。慌てて宿に引き返した。「逃げろ」。大声を上げながら、昭夫さんは2階の自室にあがった。バッグに身の回り品をつめた。近くに落ちていた携帯電話を手につかみ、再び1階に下りて裏口から出ようとすると、水を含んだ土砂が押し寄せてきた。


宿泊客が見たのは、駒の湯の対岸で発生した小規模ながけ崩れだったのだろう。その直後に、「水を含んだ土砂」が上流から一気に大量に押し寄せてきて、それに飲み込まれてしまった。上流から襲った土砂には、それに飲み込まれるまで、駒の湯にいた誰ひとり気づかなかったとみられる。

6月14日地震災害のグーグルマップ表示


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表示した地点
・地表に出現した地震断層
・駒の湯とそれを襲った土砂くずれ
・荒砥沢ダム北の地すべり
・湯浜温泉付近の水蒸気噴出(誤報だったようだ)
・いつもどおりに水蒸気を上げている片山地獄
・落ちた祭畤(まつるべ)大橋

8時43分の地震と緊急地震速報



気象庁ページより

震源から30キロ以内の激震地では、緊急地震速報が間に合わなかった。情報より先に揺れが来た。これは、このシステムの原理的限界だ。この限界をもっとていねいに何度も国民に周知すべき責任を気象庁は負っている。

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1時45分に茨城県沖で発生した地震の情報伝達

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緊急地震速報は間に合わなかった。速報は、地震波の主要動(S波)が新潟市を通過する頃にやっと出た。

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しかし検知システムは、海底で発生した地震波の主要動が人が住む陸地に到達する前に情報を吐き出していた。その第一報は地震波(P波)検知から9.3秒後に出力されたという。それは東京に地震波の主要動が到達するより20秒も前だった。この情報が一般向けに緊急地震速報として伝達されなかったのは、陸域での震度が4を超えないだろうとシステムが判定したからだったという。

その後も次々と集まってくる多点のデータを取り込んで再計算を繰り替えしたシステムは、ついに地震波検知から58.3秒後、震度5弱になる判定を下し(あるいは震度5弱を観測した情報がシステムに組み込まれて)一般向けの緊急地震速報となった、らしい。

今朝の地震は、緊急地震速報の効果を社会に知らしめるためにまさしく適当な場所で発生した。しかし地震がやや小粒だったためと検知システム能力が不十分だったために、残念ながら速報することができなかった。気象庁は不運だった。

図は、気象庁ページから転載した。地震の概要ページも参照した。

内陸の浅い地震に緊急地震速報は無力

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内陸の浅い地震では緊急火山情報が役に立たないことが、能登半島で今朝起こった地震で実証された。上は気象庁サイトから転載した図である。図をクリックすると気象庁ページが別窓で表示される。赤い星が震源、黄色が震度4だった領域だ。

一番内側にあって緊急地震速報第1報提供時を示す0の円が、黄色い領域をすっかり取り囲んでいる。震源から伝播した主要動がこの地域で震度4の揺れを発生させる前に緊急火山情報を伝達することができなかった事実がよくわかる。この円の外側に、5秒後、10秒後、、のS波の到達位置が同心円で示してある。

内陸の浅い場所で起こった地震の情報を被災地に事前に提供する企ては、どんなに技術革新が進んでも達成できないだろう。震源までの距離が近すぎる。残念なことに、そしてそれは当然のことなのだが、震源に近いところでこそ深刻な被害が生じる。

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緊急地震速報の原理に誤解

昨年10月1日から気象庁が導入した緊急地震速報の原理は、まだ社会に正しく理解されていないようです。アサヒコムは、きょうのニュース記事の中で次のようにP波とS波の違いで説明してしまっています。

緊急地震速報は、気象庁が昨年10月から発表を始めた。P波と呼ばれる小さな揺れをとらえ、地震の規模や震源地を予測してS波と呼ばれる大きな揺れの数秒~数十秒前に発表する。


この説明は、震源とひとつの観測点しか考察対象にしていません。じっさいは震源と多数の観測点があります。緊急地震速報は、震源に近い観測点が初期微動(P波)を捕らえた事実を、震源から遠い観測点に主要動(S波)が到達する前に知らせようとするものです。S波より先にP波が来る性質よりも、むしろ地震波の速度よりも通信の速度のほうが桁違いに速いことを利用したしくみです。気象庁のページには、次の説明があります。

緊急地震速報は地震の発生直後に、震源に近い地震計でとらえた観測データを解析して震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を推定し、可能な限り素早く知らせる情報です。


P波の速度を7キロ/秒、S波の速度を4キロ/秒として、震源から40キロ離れた地点で考えましょう。地震発生から6秒後にP波到達します。得られたデータを5秒かけて解析して緊急地震速報を出します。地震発生から11秒の時点です。しかしこの地点には、その1秒前(地震発生から10秒後)にS波が到達してしまっています。

震源から40キロくらいまでの地点では、緊急地震速報は原理的に間に合わないのです。地震は震源に近いほど大きく揺れますから、都市の直下で起こった地震に緊急地震速報は無力です。震度5以上の揺れを、気象庁が事前に教えてくれるようになったなどと過剰に期待してはいけません。それは誤解です。

いっぽう南海地震のような沖合いに震源をもつ大地震のときには、緊急地震速報が有効です。震源から100キロ離れた地点にS波が到達するのは地震発生から25秒後です。緊急地震速報受信のあとに14秒程度の余裕があります。震源近くの海底に沈められている地震計がとらえるP波情報が防災のために本当に役立つのです。

以上の考察からわかるように、緊急地震速報の原理を、P波をとらえてS波が来る前に速報すると表現するのはたいへん不適切です。この表現には、実現できるはずのない期待を社会にもたせてしまう弊害があります。震源から40キロの地点にS波が到達するのは、P波のわずか4秒後、地震発生から測っても10秒後です。どうやっても、緊急地震速報は間に合いません。

緊急地震速報の本質は、震源に近い観測点でとらえた地震波情報を、震源から100キロ程度はなれた地点に地震波が到達するよりも先に伝えることです。地震波の速度より通信の速度のほうが桁違いに速いことが、これを可能にさせます。

なお、S波より先にP波が来る性質を利用したしくみは、緊急地震速報システムとは別にあります。それはP波センサーといって、数年前からエレベーターなどで実用化されています。これは、ひとつの観測点だけでおこなう地震対策です。

P波センサーは予報業務にあたらない?

気象庁ページの地震動の予報業務許可についてよくある質問と回答より

(問)P波センサーを用いて、まもなく大きな揺れが来ることを利用者に知らせることは、地震動の予報業務にあたるのですか。
(答)単体のP波センサー(特定地点においてP波を観測し、その後、当該地点に大きな地震動が到達することを報じる装置)のような観測装置を用いて、当該観測場所におけるS波の地震動を報じる業務については、当該観測場所にS波がP波よりも後に到達し、かつより大きな地震動をもたらすという自明なことを報じているに過ぎませんので、予報業務にはあたりません。


気象庁が12月1日から導入した「地震動」予報・警報は、自明のことを報じるシステムではないというのだろうか。地震波の速度より情報伝達速度のほうが速い。科学が保証するこの「自明」を利用したシステムが、技術革新によって実用化できたから今回導入したのではなかったのか。先行して気象庁外で行われていたP波センサーによる「地震動」予報システムを予報業務にあたらないとしたこの一問一答は、予報業務の許可制度が時代に合わなくなったことを証明しているようにみえる。
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