早川由紀夫の火山ブログ

火山でいま進行中の噴火や異常をわかりやすく解説します。

噴石は風の影響を受ける?受けない?

気象庁が使う「噴石」という語のいいかげんさにはいささかうんざりだが、弾道岩塊の飛来は火山防災を実現するための最重要課題のひとつだから看過することはできない。私も粘り強く言い続ける。

噴火予報・警報 第1号
火山名 浅間山 噴火警報(火口周辺)
平成20年8月8日15時00分 気象庁地震火山部

3.防災上の警戒事項等
 火口から概ね2kmの範囲では、弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒
 風下側では、降灰及び風の影響を受ける小さな噴石に注意


浅間山の噴火警戒レベル

レベル3 山頂火口から中噴火が発生し、4km以内に噴石や火砕流が到達
レベル2 山頂火口から小噴火が発生し、2km以内に噴石や火砕流が到達

注1)ここでいう噴石とは、主として風の影響を受けずに飛散する大きさのものとする。


2キロを超える風下に小さな噴石が到達するかもしれないから注意しろという。レベルの定義表を素直に読めば、それならレベル2ではなくレベル3だ。気象庁がいう噴石とは、いったい何なのだろうか。火山監視の責任官庁が、このようなわけのわからない防災用語をキーワードとして使うことを許してよいのだろうか。噴石はいったい風の影響を受けるのか、受けないのか。気象庁は、はっきりした言葉で語るべきだ。

なお、噴石は日本気象庁が独自に用いる用語である。国際語である英語にそれに対応する語はない。また私自身は、火山学を記述するときに噴石の語を10年以上前から一切使用していない。学術研究においてはあいまい性を排除する必要があるからだ。火山弾 (bombs) あるいは火山岩塊 (blocks) の語を使う。噴石の語を使わなくても、最新火山学を平易に記述することができる。

「噴火に関する火山観測報」

気象庁が本日未明、噴火に関する火山観測報というラベルの情報を突然出した。本年1月に新設した火山の状況に関する解説情報との関係は不明だ。あ、ここに説明がある。随時と適時の違いか。わかったような、わからないような。想像するに、噴火に関する火山観測報はおそらく速報なのだろう。

本日未明の桜島観測報には、ひな形にない噴石情報が盛り込まれている。

火  山:桜島
日  時:2008年04月08日00時29分(071529UTC)
現  象:爆発
有色噴煙:火口上1200m(海抜6800FT)
白色噴煙:
流  向:南東
---
A点最大振幅 :2.0μm
爆 発 音 :不明
体 感 空 振 :不明
O点空振計 :不明
D点空振計  :2.3Pa
噴 石 :中量5合目
噴 煙 :中量
火 口 :昭和火口
今年6回目


ここでいう噴石は弾道を描いて空中を飛行した大きな噴石の意味だと思われる。しかし、この程度の爆発なら、2ミリの小さな噴石は島を取り巻く一周道路のどこかに落下しただろう。つまり気象庁自身が先日定義したばかりの噴石は、5合目よりはるかに遠くまで達したことが確実だ。このような不正確な情報は、社会に利益をもたらすより、むしろ混乱させる害毒となる。

気象庁噴石にかかわる前回の文章は4月4日

【“「噴火に関する火山観測報」”の続きを読む】

直径20ミリの火山礫も火山弾?



火山麓の市町村が、車道の上に落下したわずか20ミリの火山礫も火山弾と呼んで住民に広報した事実がここにある。2004年のことだ。風に流されて空中を移動した火山礫を火山弾と呼んでしまうと、弾道軌道を描いて空中を飛行して着地点にクレーターをつくるようなほんとうの火山弾を何と呼べばよいか、専門家は当惑してしまう。火山礫も、頭上にまともにくらえば生命の危険があるが、ほんとうの火山弾の破壊力はそれとは比べものにならない。両者を言語で明確に区別することが、火山防災のために必須である。

2004年9月1日の浅間山噴火で、後者のきわめて破壊的な火山現象が発生したが、気象庁はこれを一般に熱心に周知しようとしなかった。むしろそのような破壊的現象があったことを隠そうとしたようにみえる。そういった種類のリスクはまるでひとつもないかのような情報提供を、気象庁は続けた。正確な意味がわからない中規模噴火という語を多用し、いまの浅間山の噴火リスクは深刻なものではないことを発表文中に匂わせた。説明会では職員がはっきりそう述べた。2000年8月の三宅島噴火でも気象庁の姿勢は同様だった。伊ヶ谷の都道に突き刺さった直径50センチの火山弾には、結局言及しなかった。

このような近い過去の歴史的事実と、上に掲げたリーフレットにみられる市町村の無知、そしてそれを教育せずに放置する気象庁をみると、気象庁による噴石という語のいまの使い方は、単なる言葉遣いの不器用に起因するものではないように思われる。気象庁は意図してこの使い方を選んでいるのだろう。その意図は、防災の目的とは相反しているように私には感じられる。

気象庁噴石にかかわる前回の文章は4月3日

気象庁による今日の噴石定義

本日12時に気象庁が発表した桜島解説情報15号には、次の記述が含まれている。

・弾道を描いて飛散する大きな噴石
・風の影響を受ける小さな噴石(火山れき)

したがって、気象庁による今日の噴石定義は次のようだと解釈される。

火山れきあるいはそれより大きいもの、すなわち直径2ミリ以上の粒子を噴石と呼ぶ。そのうち火山れきサイズを「小さな噴石」と呼ぶ。これは空中を飛行する際に風の影響を受ける。火山れきより大きい粒子、すなわち直径64ミリ以上の粒子を「大きな噴石」と呼ぶ。これは風の影響を受けずに弾道軌道を描いて飛行する。

火山学には64ミリ以上の粒子に対して火山岩塊(がんかい)という確固たる呼び名がある。英語ではblocksという。今日の気象庁がいう大きな噴石は火山岩塊に等しく、小さな噴石は火山れき(lapilli)に等しい。これらについて、大きな噴石、小さな噴石とわざわざ煩雑でわかりにくい呼び方をする必要性はどこにも認められない。新しい概念の提出がそこにあるわけでもない。また、昨年(2007年)12月に発表した噴火警戒レベル表では、噴石を一貫して大きな噴石の意味で使っている。この表をこのまま放置すると、次の火山危機のときに深刻な誤解が生じるだろう。

すでに確立している火山用語体系を使うことを拒絶して、気象庁内部だけで使ってきた隠語(jargon)の使用を社会に無理やり押し付けるこの行為は、健全なリスク・コミュニケーションの姿ではない。もし気象庁が、(出先機関である軽井沢測候所が明治以来つい最近まで使ってきた慣習を尊重して)噴石を火山岩塊の意味に限って使うというのなら、火山岩塊に代えて噴石の語を防災用語として一般に普及することに意義が見出せるかもしれない。しかし、そう定義せずに2ミリの石粒も噴石だといま新たに呼ぼうとするのなら、それは社会をわざわざ混乱させる愚かな行為である。防災用語の不適切な使用は、無念の犠牲者を生むことに直結する。気象庁は、火山監視機関としての責任を十分に果たしているとは言えない。

火山名 桜島 火山の状況に関する解説情報 第15号
平成20年4月3日12時00分 福岡管区気象台・鹿児島地方気象台

**(本 文)**
<火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)が継続>

 本日(3日)10時55分頃、桜島の昭和火口(南岳東斜面、標高800m)でごく小規模な噴火が発生しました。監視カメラによると、灰色の噴煙を火口縁上高さ800mまで上げています。火砕流、弾道を描いて飛散する大きな噴石の飛散は確認されていません。

 昭和火口からの噴火は、2008年2月6日以来です。

 今後しばらくは噴火活動が継続し、南岳山頂火口及び昭和火口の周辺に弾道を描いて飛散する大きな噴石を噴出する程度の小規模な噴火が発生すると予想されますので、これらの火口周辺では噴火に対する警戒が必要です。また、風下側では降灰及び風の影響を受ける小さな噴石(火山れき)に注意して下さい。

<火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)が継続>


気象庁噴石にかかわる前回の文章は3月20日

噴石の混乱深まる 内閣府と気象庁

きのう(3月19日)公表された「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」は、噴石の定義を次のように書いている(7ページ)。

噴石 噴火に伴い噴出された石は、その大きさ形状等から、火山岩塊、火山れき、火山弾等に区分されている。本報告書ではこれらの石を総称して噴石とする。


火山れきも噴石と呼ぶと明記している。火山れきは2ミリから64ミリの石のことだから、2ミリより大きい石が噴石と呼ばれることになる。しかし気象庁は、昨年(2007年)12月に公表した噴火警戒レベルの説明で、噴石の語を弾道軌道を描いて空中を飛行した岩塊の意味で統一的に使ったばかりだ。

樽前山
レベル5 1667年及び1739年:大規模噴火、噴石が火口から概ね4kmまで飛散、

北海道駒ヶ岳
レベル3 小噴火が発生し、山頂火口原内に噴石飛散

岩手山
レベル5 噴石は火口から山麓(約4km)まで飛散

吾妻山
レベル3 小〜中規模噴火が発生して、火口から概ね4km以内に噴石飛散
【過去事例】
1950年:噴石が火口から約1.2kmまで飛散
1893年:噴石が火口から約1.5kmまで飛散

草津白根山
レベル5 山頂火口から概ね3km以内に噴石飛散

浅間山
レベル3 山頂火口から中噴火が発生し、4km以内に噴石や火砕流が到達
注1)ここでいう噴石とは、主として風の影響を受けずに飛散する大きさのものとする。

以下の火山は略。


直径2ミリの石なら、ちょっとした爆発でも簡単に火口から10キロくらいまで空中を飛行する。風に流されるからだ。上記は、最高レベルの5でも4キロと書いているから、弾道軌道を描いて空中を飛行して着弾点にクレーターをつくる大きな岩塊だけを想定して噴石の語を用いたと解釈される。浅間山では、「主として風の影響を受けずに飛散する大きさのものとする」と、わざわざ注書きまでした。火山学では、直径100ミリを超えると風の影響が無視できると考えるから、火山れきを噴石から除外する意図がこのとき気象庁にあったのは明らかだ。

今回の指針策定には気象庁も大きくかかわったはずだ。これはもう、ずさんだとしかいいようがない。気象庁の火山担当者が日本語を用いた正確な論理表現ができないか、気象庁が内閣府に遠慮して譲ったかのどちらかだ。気象庁の火山責任者は自分がなした朝令暮改に気づいているのだろうか。この問題は、けっして枝葉末節ではない。噴石によるリスクは火山リスクのなかでもっとも頻繁に出現し、人体にとって致命的なリスクだから、このずさんは看過できることではない。

噴火警戒レベルをいまから書き換えるのは、やってもいいが、レベル表全体への波及が大きいからめんどうな作業になるだろう。指針の定義文から「火山れき」を削除するのが簡単だし、合理的な修復方法だ。噴石を、「弾道軌道を描いて空中を飛行した物体」だと定義すればもっとよくなる。ほんとうは、これを機会に、これだけミソがついてしまった噴石の語を気象庁には放棄してもらって、火山弾で置き換えてほしいものだ。私はずいぶん前からそうして使っているが、困難はない。言いたいことをわかりやすい文章で読者に的確に伝えることができている。

2007年12月23日の文章参照

噴火警戒レベル表(2) 草津白根山

草津白根山のレベル3に、重大な変更があることに気づいた。

旧レベル表でレベル3は、「山頂火口から火口周辺1km程度まで噴石を飛散する噴火」となっていたが、新レベル表では「半径2km程度まで噴石飛散」に変更されている。この火山の周りには、湯釜中心から測って2.3キロの距離に複数の温泉宿泊施設がある。レベル3への対応として気象庁が表に書いた「住民は通常の生活。状況に応じて災害時要援護者の避難準備。登山禁止・入山規制等危険な地域への立入規制等」から、まったくかけ離れた現実がここにある。

草津白根山がレベル3になったとき、この温泉宿泊施設は営業できるのか。嬬恋村の対応に注目しよう。

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