御嶽山でも、浅間山でも、火口縁は意外と火山弾に当たりにくい。ほとんどの火山弾はそこに立つ登山者の頭の上を超えて遠くまで飛行する。高角度で投出される火山弾が少ないからだ。火口縁にいる登山者は、高空から落下してくる無数の火山れきに当たる。横からでなく上から襲われる。
20世紀の浅間山噴火死者30数人は、大きな火山弾が横から命中して打ち砕かれたと思っていたが、そうではなかったようだ。御嶽山2014年9月27日のように、火口縁にいた登山者は高空から降り注いだ無数の火山れきに当たって絶命したのだろう。

Eject!を用いて、初速150m/s、直径50cmで飛行軌跡を計算した。投出角度は35、40、45、50、55度の5通りだ。実際の火山爆発では、この角度で投出される火山弾が大部分を占める。どれも1800から2000メートル地点に着弾する。1800メートルより火口側に落ちる火山弾はあまりない。

角度を上げて、60、65、70、75、80度で計算した。80度だと火口縁に落ちる場合があるが、まれだ。1950年9月23日の爆発で浅間山釜山火口の北縁に鎮座した千トン岩は、このまれな飛行軌跡を描いた例だ。火口縁の登山者は火口から低角度で出た火山弾に直撃されることがあるが、火口縁から少し下った斜面に身を隠せば、その直撃もなくほとんどの火山弾が頭上を通過して行く。
50センチの火山弾には耐えられないが、5センチの火山礫には耐えられるシェルターをもしつくるなら、火口縁から少し下った斜面に設置すれのがよい。もっとも大きな効果が得られる。また火口縁の近傍では、真上から降ってくる火山れきを避けるためにヘルメットを着用することが強く推奨される。
ただし、上の考察はすべての火山弾が同じ初速で投出されると仮定した。もし火山弾によって初速のばらつきがあるなら、縁辺部にできる火山弾密集地より内側にも無視できない数の火山弾が着地するだろう。
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直径 3, 6, 12, 25, 50 cm の粒子を火口から 45度、 150 m/s で射出したときの空中軌道。6 cm 以下は空気抵抗を強く受けるが、12 cm 以上は空気抵抗をほとんど受けずに放物線に近い軌道を描く。火山学では、6 cm 以下を火山れき(lapilli)、それ以上を火山岩塊(blocks)と区別する。
放物軌道を描いて空中を飛行した火山岩塊を(温度や形態によらず)すべて火山弾と呼ぶことにすると、防災情報が誤解されることなく当事者に伝わる。
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・火山れきは、火口の真上で空高くまで上がったあと、風に吹かれて横方向に移動してから地表に落ちる小石です。ヘルメットをかぶっていれば、また家や自動車の中にいればケガせずにすみます。
・火山弾は、火口から高速で投げ出された大岩です。弾道軌道を描いて空中を飛行します。最大4キロまで届きます。これに当たるとひとたまりもありません。もし火山弾の射程距離内で突然の爆発に遭遇したら、よけてください。
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新燃岳 風下では噴石に注意を
NHK 2月14日 18時47分
霧島連山の新燃岳では、14日朝、3日ぶりに爆発的な噴火が起き、10キロ以上離れた所でも小さな噴石によってガラスが割れたとみられる被害が出ました。気象庁は、特に風下の地域では噴石に注意するよう呼びかけています。
新燃岳では、14日午前5時7分ごろ、今月11日以来3日ぶりに爆発的な噴火が起き、山の中腹では爆発に伴う空気の振動=空振が観測されました。気象庁によりますと、空振の値は332パスカルと、100か所以上の建物で窓ガラスが割れるなどの被害が出た今月1日の爆発的噴火に次ぐ大きさでした。14日朝の爆発的噴火のあと、小さな噴石や火山灰が南西の風に乗って山の北東側に流れ、風下に当たる宮崎県小林市では、火口から16キロほど離れた場所でも小さな噴石によって車のガラスが割れたとみられる被害が出ました。風は昼すぎから北西に変わり、さらに15日朝にかけては北寄りになる見込みです。気象庁は、今後も当分の間は、これまでと同じ規模の爆発的な噴火が続くおそれがあるとして、引き続き、大きな噴石が飛ぶ危険のある火口からおよそ4キロの範囲には立ち入らないよう呼びかけています。特に風下の地域では、10キロ以上離れていても小さな噴石による被害が出るおそれがあることから、今後の風向きなどにも十分注意するよう呼びかけています。
このNHKニュースを聞いて、加害要因として大きな噴石と小さな噴石の二つがあって、それぞれ別個に注意しないといけないことがわかる日本人が、はたして何人いるだろうか。
二つ目の噴石がむき出しで書かれているが、これは「小さな噴石」と書くべきだった。いま防災情報を正確に伝えたいと欲するなら、噴石をむき出しで言ってはならない。「大きな」あるいは「小さな」という形容詞を常にかぶせないと正しく伝わらない。
2000年10月までは、桜島を擁する鹿児島地方気象台は、噴石は火山弾だけをいい、風に乗って遠くまで運ばれる小石は火山れきと言って区別していた。浅間山でもそうだった。噴石は火山弾を意味した。しかしその後、(現場を知らない)大手町の官僚が、どっちもあたってケガをするのだからどちらも噴石というと勝手に決めた。そのあと文書をつくっていくうちに齟齬がどうしても出る。噴火警戒レベル表における噴石の使い方が火山によって違う。噴石という言葉はもうぼろぼろだ。
気象庁は「小さな噴石」「大きな噴石」と分けて言うようにしたようだが、NHKはそんな背景を理解できない。とんでもない無責任情報が、お茶の間のニュースで毎日この国に流れる。
大きな噴石は火山弾という。小さな噴石は火山れき(小石でもよい)という。なんでこれができない。つまらないメンツはさっさと捨てろ。
鹿児島地方気象台が平成12年(2000年)10月10日10時に発表した
定期火山情報第10号に付された参考資料に次の記述があります。
[参考資料]
降灰と噴石について
火山が噴火したときの噴出物には、噴煙、降灰、噴石、溶岩があります。そのうち、降灰と噴石の種類について紹介します。
降灰現象時の降下物には、火山灰と火山礫があります。この2つは下表のように粒の大きさにより分類しています。
表1.降灰の種類
大きさ 種類
直径2mm未満 火山灰
直径2~64mm 火山礫
気象台では、毎日9時に前24時間の1㎡あたりの降灰量(重さ)を測定してその日の降灰量としています。大噴火の際には、火山灰がおびただしく積もることもあり、そのような場合には積もった厚さを測定することもあります。
噴石については、その大きさにより下表のように分類して表現しています。
表2.噴石の大きさ
噴石の大きさ 表現の方法
6~10cm こぶし大
10~30cm 人頭大
0.5~1m 半身大
1.5~2m 人身大
3m以上 巨大
噴石は火山岩塊ともいい、そのうち特定の形をしたものを火山弾と呼ぶこともあります。また、黒色の多孔質(穴の多い)のものを岩滓(がんさい)またはスコリア、白色の多孔質のものを軽石と呼ぶこともあります。
気象台では、桜島の爆発時には、飛散した噴石の量(少量、中量、多量)と、飛散した範囲(山の合目で表現)を目視や遠望カメラによって観測しています。
噴石の大きいものはほとんど風の影響を受けずに飛散します。水平到達距離は通常火口から1~2km程度ですが、強い噴火では数km程度まで飛散することがあります。小さい噴石や降灰は風の影響を受けて風下に流れることが多く、高い噴煙が上がった場合や風が非常に強い場合に降灰は数十kmまで飛散して、自動車の窓ガラスを破損したり、交通障害や家屋・農作物に被害を与えることがあります。
2000年10月の時点で、鹿児島地方気象台は64ミリ以下の粒子を噴石とは呼ばず、火山礫と呼んでいた事実が確認できました。しかし同じ年の8月、気象庁本庁は三宅島の噴火で火山礫サイズの粒子まで噴石と呼ぶと宣言してしまったのでした。
気象庁本庁は、噴石の定義を2000年10月の鹿児島地方気象台に戻すべきです。そして、泥まみれになってしまった噴石の語を使うのはもう断念して、次のように記述するのがよい。
大きな噴石 → 火山弾
小さな噴石 → 火山れき
火山弾と呼ぶとき専門家は形態にこだわりますが、このさい防災情報をわかりやすく正確に伝達するために専門家の定義を変更して、火山弾を形態によらず空中を飛行した64ミリ以上のすべての粒子を呼ぶことにするのがよい。
【“桜島では、噴石は64ミリ以上に限られていた”の続きを読む】
気象庁の
週間火山概況より
桜島では、昭和火口及び南岳山頂火口から2kmを超えた居住地域近くまでの範囲では、噴火に伴う大きな噴石及び火砕流に警戒が必要である。風下側では降灰及び小さな噴石1)(火山れき4))に注意が必要である。降雨時には土石流に注意が必要である。
3)桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現している。
気象庁が小さな石まで噴石と呼ぶことにしたのは、てっきり桜島で言い習わされたからだろうと想像していたが、そうではなかった。桜島では火山れきと呼んでいたのだという。
浅間山では、火山弾に限って噴石と呼んでいた。小石まで噴石と呼んでいた火山現場はなかったようにみえる。小石まで噴石と呼ぶ用語法は、大手町の少数幹部が現場の意見を聞かずに、現場の習慣を無視して決めたことなのだ。はげしく迷惑なことだ。
小石の落下も災害を引き起こすから噴石と呼んで注意喚起したいという意図だったようだが、1センチの小石が車のフロントガラスを割る被害も、1メートルの火山弾が地面に大穴をあける被害も、いまの気象庁の用語法ではどちらも同じ噴石の被害だと記述される。災害に強弱があることが忘れられている。
英語では、64ミリ以上をblocksといい、64ミリ以下2ミリ以上をlapilliという。火山れきはlapilliの和訳である。Blocksの和訳は岩塊(がんかい)だが、音を聞いただけではわかりにくいので、火山専門家として私が普及講演するときには火山弾あるいはブロックと言い換える。
気象庁が17日に発表した
那須岳の噴火警戒レベル表には、重大な誤記がある。書き手と読み手のコミュニケーション不全が発生している。それは、また「噴石」の使い方だ。1センチの噴石が4キロの地点に降ったとき、那須岳のレベル表をそのまま適用するとレベル5になる。しかし、記述の精神を透かし読むと、その程度の危険を気象庁はレベル3としたいらしい。
レベル5とレベル4の説明文中の「噴石」を「大きな噴石」に書き改めれば、この困難は微視的には解決できる。しかし、同時に発表された4火山のうち、那須岳と箱根山では注で「大きな噴石」を定義しているのに、安達太良山と磐梯山では注で「噴石」を定義している。どちらも意味はまったく同じで、「主として風の影響を受けずに弾道を描いて飛散するもの」だという。
すくなくとも、
同時に発表したレベル表では「主として風の影響を受けずに弾道を描いて飛散するもの」を何と呼ぶか統一してほしかった。本当は、気象庁全体で統一すべきであるのは言うまでもない。しかし気象庁は、部署と時によって「噴石」の意味を異なって使う。そもそも、注記説明しなければならないような用語法を採用していること自体が、防災情報提供機関として欠格であることを証明してしまっている。
「主として風の影響を受けずに弾道を描いて飛散するもの」には、「噴石」ではない別の独立した言葉を当てるべきである。その言葉として最有力なのが「火山弾」である。
気象庁が使う「噴石」という語のいいかげんさにはいささかうんざりだが、弾道岩塊の飛来は火山防災を実現するための最重要課題のひとつだから看過することはできない。私も粘り強く言い続ける。
噴火予報・警報 第1号
火山名 浅間山 噴火警報(火口周辺)
平成20年8月8日15時00分 気象庁地震火山部
3.防災上の警戒事項等
火口から概ね2kmの範囲では、弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒
風下側では、降灰及び風の影響を受ける小さな噴石に注意
浅間山の噴火警戒レベル
レベル3 山頂火口から中噴火が発生し、4km以内に噴石や火砕流が到達
レベル2 山頂火口から小噴火が発生し、2km以内に噴石や火砕流が到達
注1)ここでいう噴石とは、主として風の影響を受けずに飛散する大きさのものとする。
2キロを超える風下に小さな噴石が到達するかもしれないから注意しろという。レベルの定義表を素直に読めば、それならレベル2ではなくレベル3だ。気象庁がいう噴石とは、いったい何なのだろうか。火山監視の責任官庁が、このようなわけのわからない防災用語をキーワードとして使うことを許してよいのだろうか。噴石はいったい風の影響を受けるのか、受けないのか。気象庁は、はっきりした言葉で語るべきだ。
なお、噴石は日本気象庁が独自に用いる用語である。国際語である英語にそれに対応する語はない。また私自身は、火山学を記述するときに噴石の語を10年以上前から
一切使用していない。学術研究においてはあいまい性を排除する必要があるからだ。火山弾 (bombs) あるいは火山岩塊 (blocks) の語を使う。噴石の語を使わなくても、最新火山学を平易に記述することができる。
気象庁が本日未明、
噴火に関する火山観測報というラベルの情報を突然出した。本年1月に新設した
火山の状況に関する解説情報との関係は不明だ。あ、
ここに説明がある。随時と適時の違いか。わかったような、わからないような。想像するに、噴火に関する火山観測報はおそらく速報なのだろう。
本日未明の桜島観測報には、
ひな形にない噴石情報が盛り込まれている。
火 山:桜島
日 時:2008年04月08日00時29分(071529UTC)
現 象:爆発
有色噴煙:火口上1200m(海抜6800FT)
白色噴煙:
流 向:南東
---
A点最大振幅 :2.0μm
爆 発 音 :不明
体 感 空 振 :不明
O点空振計 :不明
D点空振計 :2.3Pa
噴 石 :中量5合目
噴 煙 :中量
火 口 :昭和火口
今年6回目
ここでいう噴石は弾道を描いて空中を飛行した大きな噴石の意味だと思われる。しかし、この程度の爆発なら、2ミリの小さな噴石は島を取り巻く一周道路のどこかに落下しただろう。つまり気象庁自身が先日定義したばかりの噴石は、5合目よりはるかに遠くまで達したことが確実だ。このような不正確な情報は、社会に利益をもたらすより、むしろ混乱させる害毒となる。
気象庁噴石にかかわる前回の文章は
4月4日。
【“「噴火に関する火山観測報」”の続きを読む】

火山麓の市町村が、車道の上に落下したわずか20ミリの火山礫も火山弾と呼んで住民に広報した事実がここにある。2004年のことだ。風に流されて空中を移動した火山礫を火山弾と呼んでしまうと、弾道軌道を描いて空中を飛行して着地点にクレーターをつくるようなほんとうの火山弾を何と呼べばよいか、専門家は当惑してしまう。火山礫も、頭上にまともにくらえば生命の危険があるが、ほんとうの火山弾の破壊力はそれとは比べものにならない。両者を言語で明確に区別することが、火山防災のために必須である。
2004年9月1日の浅間山噴火で、後者のきわめて破壊的な火山現象が発生したが、気象庁はこれを一般に熱心に周知しようとしなかった。むしろそのような破壊的現象があったことを隠そうとしたようにみえる。そういった種類のリスクはまるでひとつもないかのような情報提供を、気象庁は続けた。正確な意味がわからない中規模噴火という語を多用し、いまの浅間山の噴火リスクは深刻なものではないことを発表文中に匂わせた。説明会では職員がはっきりそう述べた。2000年8月の三宅島噴火でも気象庁の姿勢は同様だった。伊ヶ谷の都道に突き刺さった直径50センチの火山弾には、結局言及しなかった。
このような近い過去の歴史的事実と、上に掲げたリーフレットにみられる市町村の無知、そしてそれを教育せずに放置する気象庁をみると、気象庁による噴石という語のいまの使い方は、単なる言葉遣いの不器用に起因するものではないように思われる。気象庁は意図してこの使い方を選んでいるのだろう。その意図は、防災の目的とは相反しているように私には感じられる。
気象庁噴石にかかわる前回の文章は
4月3日。
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