桜島で今回拡大された立入禁止区域は、あまり報道されていませんが、
災害対策基本法63条が定める
警戒区域です。63条は罰則規定をもつ強い規制です。警戒区域は、国でも県でもなく、市町村の長が指定します。現在は、南岳B火口および昭和火口から半径2キロの円内を鹿児島市が警戒区域に指定しています。
気象庁は
桜島の危険レベルを6月12日に2から3に引き上げました。これに呼応して鹿児島市は警戒区域を拡大しましたが、それは半径2キロをそのままにして、円の中心を南岳B火口から昭和火口にも移したものでした。したがって今回の処置によって、気象庁レベル3に対応する警戒区域円の半径は、桜島の場合、2キロであると判断されます。
現在の警戒区域内には、もちろん人家はないし、経済活動もおこなわれていません。この領域を63条警戒区域にした鹿児島市の災害対応は適切です。
将来、桜島の危険度が増して、気象庁がレベルを4、さらには5に引き上げたときのことを考えてみましょう。鹿児島市は桜島から全住民を避難させる必要に迫られます。そのとき、いまの2キロ円を拡大して桜島全体を63条警戒区域にするのか、それとも63条ではなく60条を行使するに留めて、住民に
避難勧告あるいは
避難指示するのか、いま決心しておくべきだと考えます。その判断には、1991年の島原での経験を使うべきです。
レベル5になると、影響が及ぶのは桜島だけにとどまりません。対岸の鹿児島市街地の取扱いも考えなければなりません。鹿児島県庁や繁華街である天文館を含む鹿児島県の政治経済の中心地をそのときどうするか、これはいま考えておくべきことです。このリスクの発現はそう低頻度ではなく、100年に1回くらいですから。
きょう16時に発表した火山観測情報16号の末尾で、気象庁は次のように書いています。
次の火山観測情報は6月26日15時30分頃に発表の予定ですが、火山活動に特段の変化があった場合には、火山情報で随時お知らせします。
気象庁はいままで火山観測情報を毎日発表してきましたが、次の発表は3日後にするそうです。このことから、気象庁は桜島の危険度が1/3になったとみなしたと解釈できます。
インドネシア、ジャワ島のムラピ火山
(Merapi, 日本語ではメラピと書くこともあるが、現地の発音に忠実に表記するとムラピ)で14日昼に発生したプレー式熱雲は、山頂から7キロまで到達した。これによって男性二人が死亡した。
じゃかるた新聞が日本語でこの事故を詳しく伝えている。
二人は、熱雲から逃げられないと判断してシェルターに避難した。しかし熱雲が残した高温の堆積物にシェルターが厚く覆われたため、熱死したという。16日朝、死亡が確認された。
報道によると、シェルターに入る直前、さらには入ってからも(?)携帯電話による連絡が彼らからあったという。シェルターに入らずに、そのまま逃げていれば助かっただろうという見方もある。
限られた情報にしか私は接していないが、いくつか思うことがある。
シェルターがなぜ埋まってしまったのか。溶岩ドームから発生するプレー式熱雲の場合、谷沿いは崩壊した溶岩ドームの破片が流れ下る。そういった場所にシェルターを建設すれば、高温の土石に厚く埋め立てられてしまうことは容易に予測できる。シェルターを設置した位置に問題はなかったか。崩壊土石に覆われない高台に設置しておけば、高温の熱風に短時間さらされることはあるが、そこに残される堆積物は厚さ数センチの砂だ。埋まることはない。しばらくの時間をおけば、シェルターから自力で脱出することが可能だ。
もうひとつ。翌日から救助隊が入ってシェルターを掘り出したという。熱雲が再び発生する危険はなかったのか。雲仙岳1991年でも、6月3日の翌日自衛隊が遺体回収に北上木場に入ったが、それは決死の覚悟だったと聞く。ムラピの場合、報道写真をみるかぎり、熱雲が再び発生する危険を軽く見ているようで、気になる。国民性の違いがなせるわざなのだろうか。
沖縄県の中城村長「もう今日から帰れるというふうに、避難指示から避難勧告に切り替えたことを、ここに皆さんに報告いたします。」(NHKテレビニュースにおける村長発言を忠実に文字化)
これは、おかしい。災害対策基本法60条による避難指示と避難勧告は、危険度の差によるものではない。避難が急を要するか否かの違いによる。避難勧告を出しながら帰宅を認めるというのは、おかしな処置だ。一時帰宅ならその限りにあらず。
第60条 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。
いっぽう那覇市のいまにも崩れ落ちそうなマンションへの立ち入りは引き続き禁止されるそうだが、崩れ落ちないまま数日がたった。1時間でも30分でもいいから大切なもの価値のあるものを取りに帰りたい住民がきっといることだろう。取りに行くことが権力によって封じられたままそれらが失われたとき、いったい補償はあるのだろうか。その損失は自然災害によるとは言えないだろう。
【“避難勧告に切り替えて帰宅許可 沖縄中城村”の続きを読む】
本日1540に発表された桜島
火山観測情報9号は、末尾にある次の記述に注目すべきです。
次の火山観測情報は6月17日15時30分頃に発表の予定ですが、火山活動に特段の変化があった場合には、火山情報で随時お知らせします。
気象庁は、12日(月)に臨時火山情報1号を発表して以来、桜島の火山観測情報を毎日夕刻発表してきました。今日は金曜日ですが、明日の週末土曜日もいままでの夕刻発表を継続すると書いています。
桜島はいまレベル3です。レベル3がカバーする危険度はかなり広い。その中での細かい上下は、気象庁が火山情報を発表する頻度で推測することができます。いまは毎日発表が継続していますから、月曜日に示された危険度がそのまま継続しています。
将来1日おきになれば、危険度が1/2になったと思います。毎週1回になれば、1/7になったと思います。
桜島の50年には及びませんが、ハワイ島のキラウエアは1983年1月以来23年噴火を続けています。桜島は噴煙を上げない日もありますが、キラウエアは溶岩を毎日毎秒流しています。いつ行っても、真っ赤な溶岩をほぼ確実に見ることができます。私は過去6回見に行っていますが、毎回真っ赤な溶岩と対面しました。
1999年3月今度は8月に行きます。私を含めて9人のグループです。学校教諭主体です。もしキラウエアの噴火を私たちと一緒に見たいと希望する方がいらっしゃいましたら、いまからでも間に合います。
航空券とレンタカーと宿を自分で確保して、8月2日朝、キラウエア・ビジターセンターに来てください。1日あるいは2日、キラウエア火山の見学をご一緒しましょう。なおハワイ島の運転は、日本より簡単です。車の数が少ない。道が広い。レンタカーは、日本の運転免許証で借りられます。私たちはキラウエア・カルデラ縁の貸別荘に泊まりますが、ヒロのホテルに宿をとっても十分往復できます。
詳しくは、
別のブログをお読みください。
明日の授業のためにつくったスライドです。

「
昭和火口から噴火したことの意味」(6月10日)も合わせてお読みください。
こんどは立体的な図解を提供していただきました。
足で歩くスイスから許可を得て転載。
【“山腹火口の下には板”の続きを読む】
時事通信12日2100
・会見した副会長の石原和弘京大防災研究所教授は「噴火による堆積物が増えれば火砕流の恐れもある。短期間で収まる兆候はなく、軽視はできない」としている。
朝日新聞12日2110
予知連は「中長期的に見ると大規模な爆発の恐れもあり、今後の活動を注意深く見守りたい」としている。気象庁も監視態勢を強化する。
共同通信12日2115
・(鹿児島地方)気象台は「(大隅半島との海峡が溶岩でふさがった1914年の)大正噴火のような大爆発にはならないが、今の規模の小規模噴火が続くのではないか」としている。
読売新聞12日2157
・火山噴火予知連絡会は、(略)「新火口で中規模の噴火が起きる可能性がある」として、
・石原和弘京都大防災研究所教授は「数日から数週間後に、大きな岩石が飛ぶ噴火や1キロ・メートル程度下まで流れる火砕流が発生する恐れがある。推移を慎重に見守りたい」としている。
西日本新聞13日0014
・桜島直下で目立った地殻の動きはなく、近く大噴火が起こるなどの可能性は低いと(鹿児島地方気象台は)みており
・石原和弘副会長(京都大教授)は「噴石が2、3キロ先まで飛散する可能性があるほか、火砕流が発生する恐れを含め、今回の活動をあまり軽視するわけにはいかない」と話している。
南日本新聞13日0740
・気象台は「大正噴火のような大爆発にはならないが、今の規模の噴火は続くのでは」としている。共同通信と同文
取材先が東京の気象庁本庁で開かれた火山噴火予知連絡会か鹿児島の気象台かで、今後の見通しにかかわる報道内容がずいぶん違う。気象台職員は、1)半分行政官、2)火山だけを監視しているわけではない、3)研究をしているわけではない、という理由から正常性バイアスにより強く影響されやすいのだろう。保守的だといってよい。現状を正確に把握することよりむしろ人心を安定させることを目標にしているはずだ。
気象庁が臨時火山情報を出して、桜島の危険レベルを2から3に引き上げました。
【“臨時火山情報1号 レベル3”の続きを読む】
京都大学ページより
[2006年6月12日 14:00更新]
6月4日12時48分、南岳A火口で大きな空気振動を伴う爆発的噴火が発生しました。(写真1)
昭和火口からではなく、南岳A火口からなのか。B火口からでないことをどうやって確かめたのだろうか。ぜひ知りたい。
気象庁は、この爆発の火山情報をまだ出していない。
【“南岳A火口からブルカノ式爆発”の続きを読む】
6月4日から始まった桜島の噴火は
灰噴火です。火口からモクモクと黒煙が上がり、風下に火山砂が降ります。ブルカノ式噴火と違って大きな爆発音を伴いませんが、風下に降るものは同じです。桜島の噴火は、大きな爆発音を伴って黒煙が空高く上昇するイメージがありますが、実際には音なしの灰噴火がけっこう多い。爆発音が聞こえないのに、鹿児島市内に火山灰が終日降る現象が1980年代によくありました。
ブルカノ式爆発と灰噴火に本質的な違いはなく、どちらも
マグマ頭部が粉砕されて、その細粉が大気中に吐き出される現象です。もっと詳しい説明は『フィールド火山学』の
ブルカノ式火山砂をごらんください。桜島だけでなく、阿蘇や諏訪瀬島の事例も紹介しています。
最近では、2004年に
浅間山で灰噴火がみられました。9月1日のブルカノ式爆発のあとしばらく静穏でしたが、9月14日から18日まで灰噴火が続きました。16日の夜が最盛期でした。その間に、山麓で地震はほとんど感じられませんでした。顕著な地殻変動も観測されませんでした。にもかかわらず、山頂の釜山火口底に470万トンの新しい溶岩が現れました。
桜島の新しい火口は南岳の東斜面に開きました。火口から地下につながるパイプ(火道)をマグマが上昇してきて地表に達すると、火口底を埋めるまもなく山腹を東に下ります。昭和溶岩の再来が心配されます。
わかりやすい図解説明を提供していただきました。
足で歩くスイスから許可を得て転載。
S席かごしまさんが、きのう(10日)の鹿児島市内の写真を掲げています。鹿児島のひとは、久しぶりの灰で難儀をしているようです。桜島の今後に対する不安な気持ちも書いてあります。
昨晩(9日)の噴火で、やはり火山灰が積もったそうです(
ちびちびさんの写真)。この火山灰を顕微鏡の下で観察すれば、今後の推移を予想するための貴重なデータが獲得できます。
南日本新聞のページに掲載された
9日14時の写真をみると、昭和火口の周囲に火口丘が成長していることがわかります。新しい場所に開いた火口から噴煙上昇を何回も繰り返したときにできる典型的な火口丘です。噴煙は熱対流によって上昇しますが、これは噴煙と同時に火口から飛び出した火山弾や土砂が積み重なってつくった地形です。1990年2月の雲仙岳でも同様の火口丘がみられました。
桜島は、しばしば爆発して火山灰を近隣の鹿児島市などに降らせる活火山として、内外によく知られています。しかし6月4日に始まった噴火は、いつもの南岳山頂からではなく、その東斜面からでした(
京都大学の図)。
桜島は円錐形をしていますが、西の鹿児島市からよく観察すると、北と南に1.2キロほど離れた二つの円錐(北岳と南岳)が合体した火山であることがわかります。そのうち南岳の山頂火口が1955年10月13日以来、毎日あるいは毎月噴火してきました。もう50年を超えました。詳しくみると、南岳の山頂にはA火口とB火口があります。先月までの50年間の噴火は、すべてこのどちらかで起こりました。
しかし6月4日に、南岳の東斜面の標高800メートル付近に新しい火口が開いて黒煙を上昇させました。そこは、1946年1月に昭和溶岩を流し出した場所でした。昭和火口が60年ぶりに噴火したと言うことができます。
昭和火口が再び噴火を始めた理由はわかりませんが、たいへん気がかりなことだと私は感じます。
桜島はいま、予断を許さない状況にあると考えています。 【“昭和火口から噴火したことの意味”の続きを読む】
予定になかった随時情報が出ました。先の発表から、まだ5時間10分しかたっていません。この情報発表は、桜島で今晩「火山活動に変化があった」と気象庁が認識したことを意味します。
火山観測情報 第5号
平成18年6月9日21時20分 福岡管区気象台・鹿児島地方気象台
火山名 桜島
** 見出し ***************************
桜島の昭和火口付近では、小規模な噴火活動が続いています。今後の活動の推移に注意して下さい。
<火山活動度レベルは2が継続しています。>
** 本 文 ***************************
本日(9日)18時26分と19時45分に桜島の昭和火口付近で噴火が発生しました。これらの噴火では、灰白色の噴煙が昭和火口から1000~1200mの高さまで上がっているのを観測しました。
以上のとおり、昭和火口付近では小規模な噴火が続いています。今後の活動の推移に注意して下さい。
また、噴火があった場合、風下側では降灰等に注意して下さい。
<火山活動度レベルは0~5のうち、2(比較的静穏な噴火活動)です。>
次の火山観測情報は、6月12日(月)17時30分に発表の予定です。
今後、火山活動に変化があった場合は、随時、火山情報でお知らせします。
「注意する必要があります」が、「注意してください」に変わりました。気象庁が、より強い警告を発したと解釈すべきです。
楽観的だった気象庁鹿児島気象台にもようやく警戒感が漂い始めたようにみえます。ただしそれは、マスメディアにはまだ伝わっていないようです。
1830ころ、高さ
1500メートルの噴煙が上がりました。海面から測ると
2500メートルです。
てるみつ部屋に垂水市役所ライブカメラのアーカイブ画像があります。灰雲は南へ向かいました。垂水市に灰が降ったとみられます。
【“噴煙1500メートル”の続きを読む】
先ほど16時10分に発表された火山観測情報4号に、
注意の文字が初めて入りました。次回の発表予定について言及したのも、4号が初めてです。3号までは、「今後、火山活動に変化があった場合は、火山情報でお知らせします」という表記でした。
昭和火口だけでなく、従来からの南岳山頂火口も今日噴煙を上げたそうです。
火山観測情報 第4号
平成18年6月9日16時10分 福岡管区気象台・鹿児島地方気象台
火山名 桜島
** 見出し ***************************
桜島の昭和火口付近では、小規模な噴火が継続しています
<火山活動度レベルは2が継続しています。>
** 本 文 ***************************
昭和火口付近では、断続的に噴火活動が継続しており、本日(9日)10時56分には昭和火口上高さ600mの灰白色の噴煙が観測されました。
今回の噴火活動は、南岳山頂火口とは異なる場所から発生しており、4日以降現在まで小規模ながら噴火活動が続いています。今後の火山活動の推移に注意する必要があります。
なお、南岳山頂火口から本日(9日)10時53分に火口縁上高さ700mの灰白色の噴煙が観測されました。
<火山活動度レベルは0~5のうち、2(比較的静穏な噴火活動)です。>
次の火山観測情報は、6月12日(月)17時30分に発表の予定です。今後、火山活動に変化があった場合は、火山情報でお知らせします。
きのう(6月8日)気象庁が発表した
報道発表資料(月例)には、6月4日からの噴煙がすべて噴火として扱われている。噴火記録の新しい基準に照らして正しい。
東京大手町は桜島対応を的確におこなっているようにみえる。
【平成18 年6月(期間外)の主な火山活動】
▲ 桜 島 [比較的静穏な噴火活動(レベル2)]
6月4日昼前、桜島昭和火口(注)付近(南岳東側斜面8合目付近)から噴煙高度200m のごく小規模な噴火が発生した。その後も5日朝まで火山灰を含む有色噴煙が時々観測され、ごく小規模な噴火が断続的に発生していたと考えられる。噴火は一旦停止したが、6日10 時前後に噴煙高度200m のごく小規模な噴火が発生し、7日17 時30 分には噴煙高度1000m の小規模な噴火があり、その後もごく小規模な噴火が断続的に発生している。
今回の噴火活動は、従来の南岳山頂火口とは異なる場所から発生しており、4日以降現在まで小規模ながら噴火活動が続いている。今後の火山活動の推移に注意する必要がある。
(現在の火山活動度レベルは0~5のうち2(比較的静穏な噴火活動))
(注)昭和14 年10 月26 日に南岳東側斜面(海抜750m 付近)から小規模噴火が発生し、同月29 日には小規模な火砕流も発生した。噴火はその後もしばしば繰り返され、昭和21 年1月以降活発化して3月には南岳東側斜面(海抜800m 付近)から溶岩を流出した。最後の噴火は昭和23 年7月27 日の小規模噴火。
気象庁は、2005年5月に新しい
噴火の記録基準を発表しました。それ以前は、桜島で高さ1000メートル以下の有色噴煙放出があっても、(奇妙なことに)それを噴火とは言いませんでしたが、それ以後は、有色噴煙の高さが1000メートルに達しなくても、噴火と記録することになりました。
今月4日以来すでに3回発表された桜島の火山情報は、この新しい規則をかろうじて守っています(ただし適切とはいえない。1号の文面に噴火の文字がない)。一方、地元でおこなわれている記者説明は古い基準に基づいてなされているようにみえます。マスメディアの報道は、調べた限りすべて、古い基準に基づいてなされています(報道例はすでに報告しました)。
1)噴火の記録基準が1年前に変更になった
2)従来の南岳火口とは別のところに噴火口が開いた
この二つの事実があるにもかかわらず、古い基準を使って記者説明した事実がもしあったなら、それは、お粗末ではすまない。
南日本新聞は、鹿児島県を販路にもつローカル新聞社だ。おのずと取材力には限界があろう。
桜島昭和火口 60年ぶり「噴火」
昭和火口からの噴火で1000メートルの高さまで噴煙を上げる桜島=7日午後5時半、鹿児島市黒神町
桜島南岳東側斜面の昭和火口(標高約800メートル)は7日午後5時半ごろ噴火、高さ1000メートルまで灰白色の噴煙を上げた。鹿児島地方気象台の観測基準に基づく同火口の噴火は1946(昭和21)年の昭和大噴火以来、60年ぶり。
同気象台の火山観測情報によると、同日は噴火以降も時折灰白色の噴煙を上げている。噴火に伴う空振はなく、火山性地震も増えていない。活動レベルは比較的静穏な状態を維持している。
火山は一般的に噴煙を上げると噴火とみなされる。しかし、桜島の場合、同気象台は噴煙の量を目視で観測し、高さ1000メートル、幅200メートル相当を超えた場合を噴火と定めている。
昭和火口は4日、60年ぶりに噴煙を観測。以来、断続的に噴煙を上げている。
南日本新聞
西日本新聞は、福岡市に本社がある。九州一円を販路にもつ中堅新聞社だ。それがこれでは、なげかわしい。科学記事だというのに子どもの使いの域を出ない。1991年の教訓はどこへ。
桜島・昭和火口噴火 60年ぶり
鹿児島地方気象台は7日午後、鹿児島市の桜島(1、117メートル)の昭和火口付近(約800メートル)で噴火があった、との火山観測情報を出した。昭和火口付近では4日、60年ぶりの噴煙が確認されたばかり。より多くの噴煙が上がる「噴火」も昭和大噴火があった1946年以来、60年ぶり。
同気象台職員が同日午後5時半ごろ、庁舎内から高さ約1000メートルに達した噴煙を確認、噴火と判断した。噴火は10分間ほど続いたという。火山性地震や微動、地殻変動のデータに特段の変化はない。
同気象台は「爆発的噴火の前兆などは表れていないが、活動が沈静化するか、活発化するかは今のところ判断できない」としている。
桜島島内で観測を続ける京都大防災研究所付属火山活動研究センターによると、4日と比べて噴煙の量が増え、噴石の飛ぶ高さも、活動が始まった当初は約50メートルだったのが、7日には約100メートルにまで高くなっているという。同センターは「中―小規模の噴火活動がしばらく続く可能性がある」とみている。
=2006/06/08付 西日本新聞朝刊=
2006年06月07日23時50分
それにしても、京都大学と気象庁のこの見解の違いは何だ。
京都大学は、島内に桜島火山観測所をもって長く研究を続けてきた大学だ。出先の単なる観測所ではなく、教授・助教授以下の火山研究者を複数かかえているから、日本における火山研究の中心のひとつだと言ってよい。
6月4日の昭和火口噴火発生以来、気象庁(実際には、鹿児島地方気象台と福岡管区気象台)が出した情報には粗さが目立つ。明らかな矛盾も指摘できる。そのいくつかは、すでにここで紹介した。
気象庁は情報発表が単に稚拙だっただけでなく、昭和火口から60年ぶりに黒煙が上昇した事実の受け止め方が甘かったと言わざるを得ない。現時点でも甘い。
1955年以来51年間続いた南岳山頂火口からの爆発を監視するのと同じ基準で60年ぶりに開口した昭和火口からの爆発を評価したのは、まったく不適切だった。51年繰り返された南岳山頂火口からの噴火基準に満たないから、6月4日に60年ぶりに開口した昭和火口からの爆発を噴火と認めないと記者取材に答えた事実(
6月5日読売新聞)は、正式に訂正すべき重大な過誤である。その後の火山情報でなし崩しに意見変更してすましてよいことではない。
一方、昨晩ウェブに掲載された京都大学桜島責任者による
意欲的なコメントにそのようなほころびはない。これまでの観察事実、現在の状況把握、それらから導き出される結論と予測、さらには住民がどうしたらよいかまで、論理立てて明快に述べている。理性的な警告が適切に盛り込まれている。
ただし一般向け文章としては、ややむずかしい。もっと平易に書いてほしかった。たとえば姶良カルデラと桜島の関係についての背景説明がほしい。それがないと、読者は全体像を理解できないだろう。
マスメディアは、そろそろ腰を落ち着けて、取材先を対岸から島内に移して長期戦の構えをとったほうが良いのではないか。
アサヒコム(全文)
桜島の昭和火口で小規模噴火
2006年06月08日01時45分
鹿児島地方気象台は7日、鹿児島県・桜島の昭和火口付近で午後5時半ごろに小規模な噴火が発生し、噴煙が1000メートルに達したとする火山観測情報を出した。同気象台によると、昭和火口付近でのこの規模の噴火は1946年の大噴火以降、比較的珍しいという。(時事)
6月5日朝の噴煙800メートルは、まるでなかったかのような記事だ。
それも、独自取材ではなく時事通信の配信をそのまま使っている。
共同通信(全文)
桜島・昭和火口で噴火 60年ぶり、噴煙千mに
鹿児島地方気象台は7日、鹿児島県・桜島の昭和火口(標高約800メートル)付近で同日午後5時半ごろ、小規模な噴火を確認したとする火山観測情報を出した。噴煙の高さは約1000メートルに達したという。同火口付近の噴火は1946年の大噴火以来60年ぶり。
同気象台によると、噴火に伴って発生する空気の振動は観測されておらず、火山性地震なども増加していない。活動は比較的静穏な状態だというが、専門家は「長期的には活発化は避けられないと考えられる」としている。
昭和火口付近では今年に入り地表の温度上昇や噴気の増加が確認されており、今月4日、火山灰を含む最大約800メートルの噴煙が上がっていた。
同火口は、55年以降、活発な火山活動が続いている桜島南岳山頂火口の約200メートル南東の斜面にある。46年の大噴火では大量の溶岩が流出、海岸にまで達した。
(共同通信) - 6月7日23時44分更新
これも、4日から6日までの噴火はなかったかのような報道。800メートルだと噴火じゃないが、1000メートルだと噴火というかのように読める記事だ。
気象庁が発表する火山情報の表題や本文での使用語句にとらわれて、発表文の内容まで読み込めない新聞記者とデスクの力不足が露呈した事例だ。
いや、本文をきちんと読めば、4日が噴火だったと5日の火山観測情報2号に書いてある。発表文をきちんと読み込むことをおろそかにして、手近の関係者から取材していいかげんな記事を書いている。
災害の初期報道は、その報道の仕方が人の生命財産に直接かかわる。そういう認識と責任感が日本のジャーナリストにはほとんどないようで残念だ。いったん災害が起こると群がるのに、災害が発生する前は片手間仕事。なげかわしい。
読売新聞と毎日新聞の新しい桜島記事は、まだみつからない。はしごを外されたことすら気づいていないのかもしれない。のんきなものだ。
火山観測情報 第2号
平成18年6月5日17時20分 福岡管区気象台・鹿児島地方気象台
火山名 桜島
昨日(5日)の昭和火口付近でのごく小規模な噴火後、本日(6日)朝方まで時々有色噴煙を観測していましたが、その後は噴煙の状況に変化はありません。
(以下略)
ん?日付が間違っているな。
いずれにしろ、気象庁は、昭和火口からの黒煙噴出を噴火と認めたわけだ。
さて、はしごを外された報道各社、どうします?
村上ファンドと秋田の逮捕で、手一杯かな。
読売新聞
(前略 写真あり)
気象庁では、目視による噴煙の量を1~7の7段階に分けており、3以上を噴火活動としている。昭和火口で確認された噴煙は2(少量)で、現段階では噴火にはあたらないという。
その基準は、南岳火口以外から出た噴煙にも当てはめることになっているのですか。
同気象台は「桜島全体で見た場合、活発化している様子はなく、現段階で大噴火が起きる兆候はない」としている。
ここは、「昭和火口から60年ぶりの噴火が起こったが、60年前のような大量の溶岩流出に至る兆候はまだない」と読み取りましょう。
桜島の島内では、住民や観光客が驚いた様子で、噴き出す噴煙を見上げた。小学4年の時に昭和噴火を経験した漁業川添守さん(69)は「囲炉裏のような(昭和火口の)噴火口から真っ赤な溶岩が噴出し、集落に迫って来たのを思い出した。またあんなことにならなければいいが……」と心配そうに山を見つめていた。
心配ですね。
昭和の溶岩は、火口から流れ出してもしばらくの間は住民に気づかれず、里に迫って初めて気づかれたと聞いたことがあります。今回はそういうことのないように、注視していてください。
福岡管区気象台と鹿児島地方気象台は、きのうの桜島昭和火口からの黒煙噴出を、噴火だったと
特設ホームページで認めました。
昭和火口付近からの噴火はごく小規模なものです。
これは、昨晩から今朝にかけての新聞各紙の「噴火の兆候なし」報道と大きく矛盾します。
朝日新聞
気象台は「今のところ噴火する兆候はないが、注意深く見守っていきたい」としている。
読売新聞
気象台では「今のところ、噴火する兆候はない。噴煙が一時的なものか今後も続くのかはわからない」としている。
毎日新聞
火山性地震・微動や地殻変動はなく、同気象台は「今のところ噴火など活動が活発化する恐れはない」としている。
原則を言えば、黒煙噴出を気象庁職員が確認したなら、それは噴火です。全国紙三紙がそろって誤報したとは考えられません。昨日、そのような内容の記者会見がおこなわれたのでしょう。
「
住民ハ理論ニ信頼セス」の再来がないことを祈ります。