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早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

社会リスクと個人リスク

【新型インフル】死者数、鳥インフルに並ぶ 「弱毒性」も侮れず 産経新聞
2009.5.20 08:16

 世界保健機関(WHO)の19日現在の集計によると、新型インフルエンザで死亡した人の総数は79人と、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)で過去最多の被害となった2006年の年間死亡者数に並んだ。

 新型インフルエンザウイルス(H1N1型)は、感染者の大半が軽症か無症状ですむ「弱毒性」との見方が有力だが、4月下旬に流行が確認されてから1カ月程度で鳥インフルエンザ1年分の死者を出したことは、重症者の比率が低くても多数の人が感染すれば強毒性ウイルスに匹敵する被害をもたらすことを意味する。

 WHOの進藤奈邦子医務官は「弱毒性でも感染力が強いと(患者全体としての)健康被害という意味では、全く侮れない」と警戒の必要性を訴えている。(共同)


進藤奈邦子医務官は、社会リスクと個人リスクの違いを語っている。豚由来インフルエンザは、個人にとってはたいしたリスクでないが社会にとっては侮れないリスクの好例だ。

疫学的にはフェーズ6

疫学的にはフェーズ6だが、政治的な力が働いてWHOがフェーズ6を宣言できない状態が発生している。

フェーズ6(パンデミック)は、感染症が汎世界的に流行することをいう。いまの豚由来インフルエンザは、パンデミックの条件をすでに十分満たす。しかし、これをこのままパンデミックだと言えないのは、パンデミックへの対応が強毒性ウイルスについてしか用意されていないからだ。フェーズ6への対応を実施すると、経済に大きな打撃が加わる。しかしこのウイルスは弱毒性だから、経済をそれほど痛めなくても対処できる。したがって、フェーズ5のままに留め置いてほしいという政治的思惑が疫学にいま強く作用している。

各国は、そしてWHOは、パンデミックを起こすウイルスには弱毒性のものもあることをあらかじめ織り込んでおくべきだった。いまからでも遅くない。弱毒性のパンデミックへの対応策を急いでつくってフェーズ6宣言するべきである。

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神戸に修学旅行に行った生徒を登校停止

北九州市教委の登校停止決定、兵庫・井戸知事が不快感 
2009年5月17日22時9分アサヒコム

 修学旅行で神戸市の一部地域などに滞在した中学生らの登校停止を決めた北九州市教委に対し、兵庫県の井戸敏三知事は17日の記者会見で「『汚染地域に足を踏み入れたら、お前も汚染源になる』というような言われ方だ」と不快感をあらわにした。

 井戸知事は、北九州市の判断について「行き過ぎと評価してもおかしくない。ここに住む私たちは1週間、家にいないといけない。社会生活をするなということになる」とも語った。井戸知事は、同県や神戸市への修学旅行中止や訪問自粛を呼びかけている自治体が複数あるとして、18日に開かれる全国知事会で過剰反応をしないよう訴える方針も明らかにした。


神戸に修学旅行に行った中学生を北九州市教委が7日間の登校停止にしたことを知った兵庫県知事が、その処置は行き過ぎだと発言したのだという。

しかし大阪府と兵庫県の中学高校がすべて休校になったのだから、北九州市教委の判断が行き過ぎだとはもはや言えない。むしろ調和的な処置を率先しておこなったと評価すべきである。

感染拡大を抑えるには、感染者を隔離する処置がもっとも効果的だ。ただし隔離は、社会経済活動の低下をもたらす。隔離処置を実施することによる利益と損失の双方を定量して突き比べ、理性によってもっとも適切なリスク管理を選択しなければならない。情動的な発言は慎むべきだ。
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水際対策の効果は、なかった

神戸で複数の高校生が豚由来インフルエンザに感染した。感染国への渡航歴がないことからヒトからヒトへの感染によるものだと考えられている。

国際空港で実施された「水際対策」は、ウイルスがわが国へ侵入するのを防ぐためのものではなく、遅らせるためのものだと聞くが、遅らせることもできなかった。

デトロイト発のノースウエスト機で5月8日に帰国した大阪の高校生たちを成田に留め置いた一事例をもってして、水際対策が一定の効果を挙げたとみる向きもあるようだ。しかし潜伏期間を考えると、デトロイト発のノースウエスト機が成田に到着した5月8日ころ、ウイルスは誰かにのって日本に忍び込んでいたとみられる。そして、神戸の高校生に乗り移った。今回の「水際対策」で感染を遅らせることは、残念ながら、できなかったというべきだ。

感染国からの帰国者を自宅待機

外国帰りの社員に自宅勤務を命じる営利企業があることをニュースで聞いていたが、同様のことをしている国立大学があることをきょう初めて知った。

大阪大学は次の処置をとった。
・感染国への公務出張は原則禁止(4月28日)
・感染国から帰国後1週間自宅待機(4月30日)

ここでいう感染国とは、4月28日の時点で「メキシコ、米国、カナダ、スペイン等」だという。米国が入っているから、黄金連休にハワイに遊びに行ったひとも自宅待機になる。

豚由来インフルエンザの情報伝達

パンデミック(全世界的流行)のリスクが高まった豚由来インフルエンザ。入手できる情報がどうもわかりにくい。

・メキシコ産の豚肉は安全なのか。食品安全委員会は、豚肉を食べても豚インフルエンザに感染することはないと言っている。ウイルスは加熱と胃酸に弱いからという理由だ。では、生の豚肉にはウイルスがついていないのか。もしついているのなら、豚肉の調理時に感染する危険があるではないか。

・弱毒性だから死なない(死亡する確率は低い)と考えるのは間違っていると、NHKが繰り返し報道する。これがどうも理解しにくい。毒性が弱いなら死ににくいと考えるのが普通ではないか。弱毒性でも、変異して強毒性になるかもしれないから危険だというなら、弱毒性に留まっている限り、その危険は小さいと表現してよいではないか。

いま巷間に流布している豚由来インフルエンザにかかわる情報は、特定の意図によって捻じ曲げられたり、コミュニケーション技術の未熟によって不適切なものになっている。

新しい学術知識を社会に向けて正確に詳細にそしてすみやかに伝達しようとする行為は、その学術知識が社会性を帯びていればいるほど、難易度が高くなる。正常な情報伝達(コミュニケーション)を妨げる要因が社会のさまざまな階層で発生する。それらをすべて克服するのは、並大抵の能力と努力と気力ではできない。

豚由来インフルエンザ流行への各航空会社の対応

日系航空会社はメキシコだけでなくアメリカ・カナダへの旅行中止を推奨しているようにみえる。手数料なしで航空券を払い戻すという。一方、米系航空会社はメキシコ行きの日程変更だけが対象で、手数料なしの払い戻しには応じていないようにみえる。ただし一部の米系航空会社は、後日別の行き先に旅行するための航空券にも無料で変更してくれるようだ。

日本航空
4月30日 メキシコ、米国(ハワイ、グアム除く)、カナダ、ブラジル行きの航空券は、手数料なしで払い戻す。

全日空
4月30日 メキシコ・米国(ハワイ除く)・カナダ行きの航空券は、手数料なしで払い戻す。

アメリカン航空
4月29日 メキシコ行き航空券の同一区間変更手数料は無料。行き先変更は問い合わせに応じる。

デルタ航空 
4月30日 メキシコ行き航空券の行き先変更は手数料無料。

ノースウエスト航空
4月30日 メキシコ行き航空券の同一区間変更手数料は無料。

ユナイテッド航空
メキシコ行き航空券の同一区間変更手数料は無料。


2009年4月28日朝 phase 4
2009年4月30日朝 phase 5
(日本時間による)