原発から放射能が飛んできて、人がバタバタ死ぬようなことは起こらないのだと、3月11日の地震から4ヵ月半たって、みなさんわかってきたと思います。案外たいしたことなかったと思っている人が多いように見受けられます。
しかし、3月15日と21-23日に東日本各地に広がった放射能は、これから何年も何十年も日本国を苦しめます。一見何も変わらない景色が目の前に広がっていますが、それは3月11日以前とはまったく違ってしまっています。都市だけでなく山もひどく汚染されてしまったことが私はとくに残念です。
この放射能汚染の実態がどうであるかを正確につかむため、私は4月8日以来、地図をつくることに熱中しました。つくった地図はすみやかに公表してきました。
私は5月の連休明けに、これが自分自身の生命を脅かす重大な脅威だとはっきり認識しました。人生設計を考え直し家族の将来を再考しました。その考察プロセスと実際行動のかなりの部分をここで紹介しました。
私が選択した対応を実行するには、かなりの出費を必要とします。これまで見通していた将来の姿もずいぶん違ったものになりました。その出費と変更を必要とさせたのはたしかに東京電力ですが、彼らに賠償するだけの財力があるとは思えません。原発にこれまで無関心だった自分にも非があったのであきらめます。
地震から4ヵ月半たったいま、私はこの仕事にひと区切りつけます。みなさんも、この災厄を自分自身の問題だととらえて、この困難を自発的に解決する道にすみやかに進まれることを私は望みます。
ツイッターのフォロワー数の推移。現在のフォロワー1万7600人。3月11日は1900人だったから、4ヵ月半で1万5700人増えた。最初の1ヵ月伸び悩んだのが残念だった。
四訂版(9月11日)をご利用ください。

放射能汚染地図を更新しました。改訂版(6月18日)以後に公開された情報と私自身の独自調査の結果に基づいて等値線に修正を施しました。本質的な変更はありません。
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グーグルマップ版(0.46MB)通常のウェブ閲覧用
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電子国土版(1.7MB)細かく見たい人用
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Adobe CS3版(32.8MB)高品位印刷あるいはデータ加工用。解凍したあと拡張子をpdfに変更しても表示できます。
転載のルール:非商用目的には自由にご利用ください。無料です。商用目的でこの地図ファイルを
このまま利用する場合は有料です(部分切り取りも含む)。この地図に含まれる地図情報を利用して、その上に何か新しい地図情報を重ねたり表現に新しい工夫を施してオリジナル地図をつくる場合は、商用目的でも無料です。
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改訂版(6月18日)
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初版(4月21日)
2011年3月11日に太平洋で起こった大きな地震と津波によって福島第一原子力発電所が壊れて大量の放射性物質が外に漏れ出した。汚染の主流は福島原発から北西方向に延びて福島市に達したあと、南に向きを変えて郡山市に向かった。福島原発から200キロも離れた千葉県東葛地方にも中程度の汚染スポットが見られる。地図には、8マイクロシーベルト毎時を最大として、4、2、1、0.5、0.25の6段階等値線が引いてある。地上1メートルの測定値である。
福島県教育委員会が県内1600の学校・幼稚園の放射線量を測定して場所と数値を発表したのは4月8日夕刻だった。インターネットでそれをみつけた私は、各市町村から高い数値ひとつふたつを選んでグーグルマップに数値をプロットした。それに8、2、0.5の等値線をつけて公開した。この作業に要した時間は2時間だった。これが、この種の放射能汚染地図の最初である。2週間後の4月21日、萩原佐知子さんがきれいにデザインしてくれた地図を初版としてインターネット上で公開した。
4月8日22時のグーグルマップと6月18日放射能汚染地図(改訂版)私は100点余りをプロットして疲れてしまったが、その後、@nnistarさんが福島県だけでなく東北関東地方全域の自治体が発表する測定値を収集して、色分けして地図上にプロットする作業を続けている。たいへんな努力である。感謝したい。ここに掲げた地図は、6月18日までに@nnistarさんが収集した7000余りのプロットを私がみて等値線をすっかり引き直した改訂版である。@nnistarさんの地図のプロット数は6月28日時点で1万3000を超えているが、引くべき等値線のかたちはあまり変わらない。すべての測定値が、
@nnistarさんのページに整理されて公開されている。
放射能汚染の分布を決めたのは風である。噴火によって火山から吐き出される火山灰は上空数キロから十数キロを吹く高空の風で移動するが、福島原発から漏れた放射性物質は地表風に乗って移動した。当時の気象データを見ると、上空1キロ以上の風ではこの分布を説明できない。放射性物質は高さ数十メートルの風に乗って地表をなめるように移動したのだ。盆地や山肌など地形の起伏を感じ取って分布しているのはそのためである。
福島原発から少なくとも三方向に汚染ルートが伸びている。それぞれ日時が違う。各地のモニタリングポストが記録した時間ごとの測定値を読み取ると、それぞれが次のタイミングで汚染されたことがわかる。
北へ向かって一関市に至った放射能雲は3月12日21時に南相馬市を通過した。南へ向かって東京に達した放射能雲は3月15日4時にいわき市を通過した。これは茨城県内で枝分かれして10時半に宇都宮市に、14時に郡山市に達した。枝分かれはもうひとつあって12時に前橋市に達したあと、夕刻以降に軽井沢町と沼田市に届いた。
飯舘村が深刻な汚染に見舞われたのは、同じ3月15日の18時のことである。その日は夕刻になって福島原発に吹きつける風が南東からに変わった。これが福島県にとって悪魔の風となった。特別に濃い放射能雲が出現して19時に福島市、20時半に郡山市に達した。郡山市はその日午後に南から汚染されたあと、夜になってふたたび北から汚染されたわけだ。この放射能雲は白河の関を越えて栃木県内に侵入し、那須と日光に達した。
千葉県東葛地方が汚染されたのは、その1週間後、3月21日から23日にかけてだった。21日6時に水戸市を通過した放射能雲は9時に東京新宿に達した。この3日間、関東地方には強い雨が断続的に降った。放射性物質を含んだ空気が北からやってきて、南からやってきた湿った空気とそこでぶつかった。東葛地方や霞ヶ浦にみられる汚染スポットのかたちと大きさは、放射能雲の濃度または雨の強さで決まった。
この汚染ルートとタイミングは、福島原発で起こった爆発日時と合わない。1号機は3月12日15時36分に爆発した。3号機は3月14日11時01分に爆発した。福島原発から大量の放射性物質が漏れたのは、爆発の瞬間ではなかった。爆発からしばらく時間を置いて、原発建屋から音もなく静かに漏れ出したようにみえる。
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週刊金曜日2011年7月8日発売号に提供した元原稿。週刊金曜日の許可を得て掲載。)
・約80人の参加者がありました。部屋を変えて、1130まで質疑応答を延長しました。
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使ったスライド(3.4MB)
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実況ツイートまとめ・翌日22日の東京新聞に大きな紙面で詳しく掲載されました。

「福島第一原発から2011年3月に漏れた放射能の広がり」
早川由紀夫
7月21日(木)08:40-10:10
08:30入室。40分説明。50分質疑応答。
群馬大学教育学部C棟2階
C206教室(前橋市荒牧町4-2)
私が担当する「火山学」の最終回授業として行います。放射能汚染地図をどうやってつくったか。汚染ルートとタイミング。山の汚染状況はどうなのか。チェルノブイリと比べてどうかなどをお話します。
学外からの参加希望者は、コメント欄に全員の氏名・所属を書いてください。「管理者にだけ表示を許可する」にチェックを入れれば個人情報が守られます。学外からいただいた参加希望者リストは、事前に本学部教務係に提出します。
【お約束】
・この授業内容は公開です。そのまま記事にしてもらってかまいません。
・授業風景の動画撮影は不可。スチル写真は少数枚なら可。録音可。
・実況ツイート可。ただし群馬大学のネット接続サービスは提供しません。
・授業で使ったパワーポイントはネットで公開します。
【交通】
・群馬大学荒牧キャンパスへの
アクセスマップ・東京0652(あさま)0746高崎0750/0804前橋0809(関越交通バス渋11)0827群馬大学荒牧(正門ロータリーにつきます)
・自動車で来られる方は、駒寄ETC出入口が便利です。上毛大橋を渡って西門まで10分です。教育学部北側に広い駐車場があります。朝だからたくさん空いているでしょう。
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霧降高原第二駐車場。
(左)側溝の上で測定(9.427マイクロ)
(中)測定器の下には泥が堆積している。
(右)駐車場全景。中央アスファルト直置きで0.496、1メートル上は0.477。側溝の上1メートルで1.328だったので側溝の異常に気づいた。

霧降滝の駐車場は0.613。ちょうど大型バス2台で小学生の団体が到着したところだった。

川場村保健センター雨どい直置き5.852(6月30日は6.284だった)、1メートル上で0.468。草地の上1メートルなら0.382。

有名ブランド川場コシヒカリが元気に育っているが、この秋の収穫はどうなるのだろうか。たいへん心配だ。
災害に見舞われた直後は、みんなで助け合ってこの困難を乗り切ろうの機運が被災地に生まれる。これを災害ユートピアという。3ヵ月くらいはこれが続く。しかし、すべてのユートピアが幻想であるように、災害ユートピアも幻想である。やがて打ち砕かれる。
住民と行政の利害は、じつは一致しない。行政も、国・県・市町村の階層ごとに利害が激しく対立する。国と県が協力して知恵を出し合ってこの災害を乗り越えましょうは幻想である。そこには激しい緊張関係が存在する。
この意味で、松本復興大臣が県知事に言った「知恵を出さないやつは助けない」は、相手の立場を思いやったたいへん親切なことばだった。しかしこれを、ジャーナリズムが悪意を持って報道し、それを見た住民とその他の日本国民が情緒的に反応して大臣を辞任に追い込んだ。大臣は、その言葉を住民に向けて語ったのではなかった。県知事を諭したのだった。
みずから工夫して努力しようとせず、助けてもらって当然だの姿勢を取る住民が自分の地域を復興できるはずがない。
被災住民とその他の日本国民の間にも緊張関係がある。血税をいくらまで何に投入するか、きっちり考えないといけない。かわいそうだけでは、この困難は乗り切れない。そんなカネはこの国にない。
安直安易なユートピア幻想からはやく目を覚まして、現実を直視して実現可能な対応策を練らないと、この国はほんとうに滅ぶ。
・「
減災のテトラヘドロンは緊張関係で構成すべき」 2007年2月
・『自然災害科学』に掲載された論文の
pdfファイル。
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松本復興大臣を応接室で待たせた宮城県知事
より大きな地図で 山の放射能汚染地図 を表示フクシマからの放射能は都市だけでなく、山も汚染してしまっています。悲しいことですが、現実を受けとめなければなりません。都市の測定点にくらべて山の測定点はまだ少ないので、これから精力的に測定して地図をつくります。

玉原湿原

塩谷町立豊月平放牧場(栃木県)
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