(1)原発から大気中に放出された放射性物質は、短軸5キロ程度の楕円形をした霧のひとかたまりとして低空(地表から高さ数十mの区間)をゆっくり(2~6m/s)移動した。工場の煙突から長時間連続して出る煙の形状(プルーム)ではなかった。→
詳細(2)放射性物質の大量放出は、大きく3回あった。どれもあいにく風が内陸に向かっているときだった。東の太平洋上に流れた放射性物質は1割か2割にすぎない。全体の6割が原発近傍の日本列島上に降り注いだ。→
詳細(3)大気中に放出されたセシウム総量は1京2000兆ベクレル。チェルノブイリ原発事故の1/10である。人口密度の違いがあるから、セシウム137に汚染された土地に住んでいた(いる)人の数は、両者ほぼ同じ。セシウム134まで考慮するとフクシマが2倍だ。→
詳細
2012年7月21日に書いた文章(放射能汚染地図七訂版の裏面に掲載)を、その後獲得した知見で改訂します。放射性物質にどこが汚染されるかを決めたのは風です。噴火によって火山から吐き出された火山灰は上空数kmから十数kmを吹く高空の風で移動しますが、原発から漏れ出した放射性物質は地表近くの風に乗って移動しました。当時の気象データを見ると、上空1km以上の風向きではこの分布を説明できません。放射性物質は高さ数十mの風に乗って地表をなめるように移動したと思われます。目に見えない霧が地表を移動して行ったとみなすと理解しやすいでしょう。等値線が盆地や山肌など地形の起伏を感じ取っているのはそのためです。
まず、2011年3月12日21時に南相馬を通過した放射能霧 (radioactive fog) が仙台湾を越えて、翌13日2時に女川を通過しました。さらに北上を続けて早池峰山を経て盛岡まで達しました。
弘前大学の3月16日ルート測定のときに、盛岡がすでに汚染されていたことがわかっています。
15日にもっともひどい汚染が生じました。前日の14日23時に原発を出発した放射能霧は、4時にいわきを通過して、6時には関東平野に達しました。しかし予報されたにもかかわらずそこでは雨が降らなかったため、そのまま西と北に向かって24時間後に関東山地と群馬栃木北部の山々に突き当たりました。そこで初めて雨に出会って放射性物質が地表にたたき落とされました。那須高原と福島中通り南部もこのとき汚染されました。放射能霧の移動速度は 4m/s(時速14キロ)。24時間かけて340キロを移動しました。
福島中通り北部が汚染されたのもこの日でした。お昼前の11時に出発した放射能霧は、18時ころ飯舘・福島・二本松に達しました。阿武隈山地を越えて福島盆地に入り込んだこの放射性物質は雪といっしょに地表に降り積もりました。その移動速度は 2m/s(時速7キロ)でした。原発から出たばかりの11時は、北風だったのでいったん南に流されましたが、すぐ風向きが変わって北西方向に突き進みました。汚染の帯が原発を通らないのは、このためです。
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福島県で、原発に近い地域に住んでいた子ども3万8000人を23年度にスクリーング検査したら、甲状腺がんが10人みつかった。そのうち3人はすでに手術してがんを摘出した。経過は良好だという。
おととし3月、大きな地震と津波のあと、福島第一原発の運転が正常にできなくなって、大量の放射性物質が空中に放出された。そのとき、福島県内と東日本の大気中を漂ったヨウ素を直接吸い込んだり、後日食物といっしょに取り込んだ人が、身体に深刻な害を受けたのではないだろうかと懸念されている。
ヨウ素は甲状腺に溜まりやすい。チェルノブイリでは、事故後しばらくしてから小児甲状腺がんが多発した。小児甲状腺がんは、100万人に毎年1人か2人しか発症しないたいへんめずらしいがんである。これほどめずらしいがんが福島県で3万8000人に10人もいきなりみつかったのは、おととし3月の原発事故のせいでないかと疑われる。しかしよく考えてみると、どうやらそうではないらしい。
福島県では24年度も続いて甲状腺スクリーニング検査を実施している。中通りなど、原発に近い地域ほどヨウ素の摂取が多くなかったと見込まれる地域の子どもたち対象だ。がんの人数はまだ発表されていないが、5ミリ以上のしこり(B判定)があった子どもの割合は0.6%だった。原発に近い地域を調べた23年度はこれより少ない0.5%だった。
原発事故の影響がほとんどなかったと思われる弘前・甲府・長崎で同様のスクリーニング検査を環境省がしたところ、B判定は1.0%だった。
しこりの有無で判断する限り、子どもの甲状腺にいま原発事故の影響は認められない。ヨウ素の摂取量とB判定割合に相関はない。
この甲状腺スクリーニング検査は、もともとけっこうあったのだけれど、いままで知られていなかった甲状腺異常を、最新式の高性能超音波検査システムによって洗い出したものとみられる。おとなり韓国でも、近年の超音波検査の普及に伴って甲状腺異常が多数みつかっているという。
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いま福島県で行われている甲状腺スクリーニング検査は、基準を定めるための検査である。この基準をベースラインと呼ぶ。福島の子どもたちの甲状腺にどれだけにしこりがあるかを調べる検査だ。いままでの検査では、100人に1人くらいの割合で大きなしこりがみつかっている。
この割合は、いままで知られていたより桁違いに大きい。しかしこれを、2年前の原発事故で出たヨウ素のせいだとみなすのは早計である。最新の超音波器械が高性能なために「見えすぎてしまう」効果によるらしい。原発事故の影響がほとんどない青森・山梨・長崎で行われた同様検査で同様の割合でしこりがみつかったことが、この推論を支える。
(ただし、ここでちょっと不審なのは、1万人に1人の割合でがんがみつかったことだ。そのうち3人がすでに手術したそうだ。これに関する情報公開は個人の権利を守るために限定的だ。したがって、3人がん手術が意味するところは、一般にはまだよく知らされていない)
2年後、2回目の検査をする。それによって、しこりを持っている人が増えたり、しこりが大きくなっていないかをベースラインと比較して調べる。しかし、ここで増大が確認できても、原発事故のせいだと決め付けるのはまだ早いのだそうだ。しこりの割合は時間とともに変化するのが普通で、その変化を見ているだけの可能性があるのだそうだ。
4年後、3回目の検査をする。このとき初めて原発事故の影響があるかないかの判断ができる。1回目(ベースライン)から2回目までに増えた分と、2回目から3回目までに増えた分を比較する。後者が無視できないほど大きかったときに限り、原発事故の影響があったことがわかるという。
ヨウ素が襲来した程度の差によって、警戒区域(多い)・中通り(中くらい)・会津(少ない)に分けて上の検査の結果を集計すれば、原発事故の影響をより正確に判定することができるそうだ。
以上、玄妙さんから教わった。
▼仮説
小児甲状腺がんは、症状が出てみつかるのは100万人あたり毎年1人2人というごくまれな病気だが、じつは症状が出ないまま100万人あたり400人くらいがもってる病気だった。これを玄妙1万分の4仮説と名付ける。
▼状況証拠
・福島県23年度検査(高汚染地域)、同24年度検査(中汚染地域)、他3県検査(低汚染地域)に大きな違いはない。ただし、その発見率は従来知見の100倍もある。
・韓国もその発見率。(
中央日報)
・都内の女子高生の甲状腺触診で6/2869すなわち0.2%に結節発見(
慶応)5月7日加筆
▼反証
・まだみつからない。
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福島県が23年度に実施した子どもの甲状腺検査において、二次検査で76人の細胞診をおこなったという。その結果、10人が陽性だった。そのうち3人ががんと確定診断されて、すでに手術がおこなわれたという。
この結果を疫学的に論じたなとろむさんは、
2かけ2表で「病気あり陽性」を2.7としているが、ここではこれを3.0として計算する。 感度=特異度= y とすると、xy = 3 かつ x + 76y = 72 である。これを解くと、y = 0.89、病気あり合計x = 3.37が得られる。

感度と特異度が89%程度だと、二次検査で陽性と判定される10人のうち7人が実際には病気なしであることを、もっと多くの人が知る必要がある。
いま福島県で行われている甲状腺検査には、いくつかの疑念がある。
・検査しても治らない。
・2年前の事故当時、福島県は安定ヨウ素剤を配布しなかったし、避難も必要ないと言った。その判断に誤りがなかったのなら、検査は必要ないはずだ。いま検査が必要だとするなら、当時の判断が誤りだったことを認めて謝罪して責任を取るのが先だ。
・いたずらに不安がる住民を安心させるための検査だともし言うなら、この検査によって異常と判定される子どもへの対応策をあらかじめ提示してほしい。これまでの検査結果によると、100人にひとりの割合でB判定が出る。
・3万8000人検査して、3人ががんだと判定されて、すでに手術されたという。必要ない手術ではなかったのか。異常と判断された子どもが必要ない手術を強いられるないようにしてもらいたい。とくに、対照群として検査された他県でB判定を受けた子どもへの対応を慎重にしてほしい。
・この検査数で3人のがん発見は、疫学では多発というらしい。多発がなぜいま生じたのか。1原発事故のせい、2検査方法のせい、3原発事故前から原因が内在していた。さて、このどれだ。
現状では、福島県に改善を求めるのはむずかしい。親たちが無駄な(むしろ有害な)検査をわが子に受けさせないようにするのが、もっとも迅速で効果的な対応策である。周りの空気に流されて、よく考えないままわが子にこの検査を受けさせるのは、避けるべきだ。
これは、予防注射の問題とよく似ている。
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