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福島県の子供にいまみつかっている甲状腺がんは超音波検査のせい?

福島県の子供全員甲状腺検査では、先行検査(1巡目、2011-2013年)で115人に甲状腺がんがみつかった。また途中だが、本格検査(2巡目、2014-2015年)では68人のがんがみつかっている。

先行検査でみつけた甲状腺がんは、2011年の原発事故前からあったがん、あるいは原発事故とは無関係のがんを、超音波検査によってみつけたと考えられる。本格検査でみつけたがんは、先行検査での見落としか、先行検査のあとの2年間に生じたがんだと思われる。しかし、それにしては数が多い。先行検査の半分以上ある。検査集団の加齢を考慮しても説明がむずかしい。

子供たちののどに超音波を照射した検査行為が甲状腺にがんを発生させたのではなかろうか。本格検査でがんが見つかった子供68人の先行検査結果を福島県が公表しているから、この仮説を検討してみよう。

表 先行検査と本格検査がんの関係


先行検査でA1は31人、A2は31人、Bは5人、受診なしは1人だった。先行検査でB判定(異常あり)だった274人に1人から本格検査でがんがみつかった。A1判定だった4061人から1人、A2判定だった3851人から1人、とくらべると10倍以上の割合だから、この結果はもっともらしい。

いっぽう、受診なしだった2万3784人からはがんが1人しかみつからなかった。この割合は、受診あり24万6647人から67人のわずか6分の1である。超音波検査を受診すると甲状腺がんになりやすいのではないかの疑いがここに生じる。

しかし、先行検査では24万6647人のうち115人にがんがみつかった。2145人に1人の割合である。先行検査を受診せず本格検査で初めて受診したひとの10倍の割合である。なにかがおかしい。先行検査受診なしの大半は、本格検査から対象になった低年齢児なのかもしれない。もしそうであれば、超音波検査のせい仮説は棄却される。

先行検査における対象者(平成 4 年 4 月 2 日から平成 23 年 4 月 1 日までに生まれた福島県民)に加え、本格検査では平成 23 年 4 月 2 日から平成 24 年 4 月 1 日までに生まれた福島県民にまで拡大した。(福島県)


やっぱりそうだ。原発事故時、胎児だった1学年を本格検査で追加してる。1学年だから2万人程度であろう。先行検査受診なしのほとんどは原発事故時、母親の胎内にいた子供であり、まだ幼くて甲状腺がんをり患していることがほとんどないからがん率が異常に小さいのだとわかる。超音波検査が甲状腺がんをつくった証拠は、まだない。
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フクシマとチェルノブイリの放射能汚染は同じ。どちらも健康被害は出ない。

フクシマの放射能汚染はチェルノブイリと同じだとした牧野淳一郎さんの見立ては正しかった。限られた情報しか入手できなかった事故初期に、何が起きたかをみごとに喝破していた(牧野の公開用日誌)。しかし、そのあと健康被害がいっこうに報告されないことを牧野さんは、報告が間違っているあるいは虚偽の報告がなされていると思ったようだ(岩波書店の月刊誌「科学」連載と2著書;牧野本批判黄色本批判)。しかし、そうではない。比較対象としたチェルノブイリの被害認定が間違っていた。

フクシマで放出されたセシウム137は5600兆ベクレル。チェルノブイリでは6京6000兆ベクレルだったから、その12分の1だ。汚染された土地の面積を地図上で測って同じ計算式で算出した。

表1 ヨウ素とセシウムの放出量比較
0115.png
表中の6.2は5.6に読み替えてください。その後、再計算して変更しました。

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健康被害の発生数は汚染された空間に何人が生活しているかによる。半減期が30年と長いセシウム137だけで比較すると、チェルノブイリ 555 kBq/m2 とフクシマ 4 uSv/h がほぼ同じ汚染になる。同じ汚染空間に住む人口を集計するとほぼ同じであることがわかる。チェルノブイリとフクシマの集団被ばく線量はほぼ同じだった。半減期が2年で放射線の強さが2.7倍のセシウム134も含めて比較すると、初めの1年間はフクシマがチェルノブイリよりひどく汚染されていたとさえ言える。

表2 セシウム137の同レベル汚染比較
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フクシマとチェルノブイリの放射能汚染の程度はほぼ同じだった。そして、30年前のチェルノブイリで低線量被ばくによる健康被害はなかった。健康被害が出たとする報告はすべて誤認による。いまフクシマで低線量被ばくによる健康被害は出ていない。今後も出ないだろう。ここで健康被害が出ないとは、その国で健康被害がいっさい生じないことを意味しない。平常時に一定確率で発生する病気や障害を超える数の発生が認められないという意味だ。

私自身は、フクシマの汚染をチェルノブイリと比べることに事故直後から没頭した(たとえば、2011年6月18日に発表した放射能汚染地図(改訂版))。遅延なくそれに成功したと自負しているが、評価基準としたチェルノブイリ被害に、残念ながら重大な事実誤認があった。

チェルノブイリから伝えられた健康被害はじつは深刻な過大評価だったと私が確信するに至った最大の根拠は、福島県の子供全員検査でみつかった甲状腺がんは放射線被ばくによるものではなく、精密な超音波検査を何十万人にも実施したからこそみつかったとする判断である。これは私だけの見方ではなく、国も県も認めた公式判断である(参議院予算委員会2016年10月6日環境大臣答弁)。福島県の子供全員検査でみつかった甲状腺がんが放射線由来でないのだから、チェルノブイリでみつかった小児甲状腺がんも放射線由来でない。なぜなら両者の低線量被ばくの程度は同じなのだから。すべて、してはいけない全員検査をしたためにみつけた過剰診断がんである。

汚染の程度は同じでも、フクシマでは、チェルノブイリと違って被ばくを避ける処置が適切に行われたから住民被ばくは桁違いに少ないと主張する人がいるかもしれない。そういう人には、放射能霧が向かう先をシミュレーションできるSPEEDIを使わなかったこと、飯舘村からの避難が事故後1ヵ月もたった2011年4月22日だったこと、水田土壌の汚染を測ることなく稲を作付して 500 Bq/kg を超える米を収穫したこと、首都圏東部の汚染が事故後2ヵ月たった2011年5月になっても新聞記事でデマ扱いされたことなどを思い出してもらおう。被ばくを避けるための適切な政策がフクシマ事故直後に行われたとは、とても言えない。