緊急地震速報は、気象庁が昨年10月から発表を始めた。P波と呼ばれる小さな揺れをとらえ、地震の規模や震源地を予測してS波と呼ばれる大きな揺れの数秒〜数十秒前に発表する。
この説明は、震源とひとつの観測点しか考察対象にしていません。じっさいは震源と多数の観測点があります。緊急地震速報は、震源に近い観測点が初期微動(P波)を捕らえた事実を、震源から遠い観測点に主要動(S波)が到達する前に知らせようとするものです。S波より先にP波が来る性質よりも、むしろ地震波の速度よりも通信の速度のほうが桁違いに速いことを利用したしくみです。気象庁のページには、次の説明があります。
緊急地震速報は地震の発生直後に、震源に近い地震計でとらえた観測データを解析して震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を推定し、可能な限り素早く知らせる情報です。
P波の速度を7キロ/秒、S波の速度を4キロ/秒として、震源から40キロ離れた地点で考えましょう。地震発生から6秒後にP波到達します。得られたデータを5秒かけて解析して緊急地震速報を出します。地震発生から11秒の時点です。しかしこの地点には、その1秒前(地震発生から10秒後)にS波が到達してしまっています。
震源から40キロくらいまでの地点では、緊急地震速報は原理的に間に合わないのです。地震は震源に近いほど大きく揺れますから、都市の直下で起こった地震に緊急地震速報は無力です。震度5以上の揺れを、気象庁が事前に教えてくれるようになったなどと過剰に期待してはいけません。それは誤解です。
いっぽう南海地震のような沖合いに震源をもつ大地震のときには、緊急地震速報が有効です。震源から100キロ離れた地点にS波が到達するのは地震発生から25秒後です。緊急地震速報受信のあとに14秒程度の余裕があります。震源近くの海底に沈められている地震計がとらえるP波情報が防災のために本当に役立つのです。
以上の考察からわかるように、緊急地震速報の原理を、P波をとらえてS波が来る前に速報すると表現するのはたいへん不適切です。この表現には、実現できるはずのない期待を社会にもたせてしまう弊害があります。震源から40キロの地点にS波が到達するのは、P波のわずか4秒後、地震発生から測っても10秒後です。どうやっても、緊急地震速報は間に合いません。
緊急地震速報の本質は、震源に近い観測点でとらえた地震波情報を、震源から100キロ程度はなれた地点に地震波が到達するよりも先に伝えることです。地震波の速度より通信の速度のほうが桁違いに速いことが、これを可能にさせます。
なお、S波より先にP波が来る性質を利用したしくみは、緊急地震速報システムとは別にあります。それはP波センサーといって、数年前からエレベーターなどで実用化されています。これは、ひとつの観測点だけでおこなう地震対策です。
