早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

星の王子さまは死火山も煤をはらう

星の王子さま星の王子さま
(2005/08)
アントワーヌ・ド サン=テグジュペリ、Antoine De Saint Exup´ery 他

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Le Petit Prince, ANTOINE DE SAINT EXUPERY, 1943
星の王子さま、サンテグジュペリ、池澤夏樹・新訳(2005.8.31)、集英社

出発の日の朝、彼は自分の惑星をきちんと片づけた。まず活火山の煤を丁寧に取ってきれいに掃除する。彼のところには2つの活火山があった。朝ご飯を温めたりするのにとても便利だった。死火山も1つあったけれど、彼は「それだってわかるものか!」と考えて、やっぱり掃除した。

「ぼくは火山を3つ持っていて、週に1回は煤をはらいます。火山の1つは活動していないけれど、やっぱり掃除をします。何が起こるかわからないから。」

「火山が3つ。2つは活火山で1つは死火山みたいですが、いつまた噴火するかわかりません」


星の王子さまは、「いつまた噴火するかわかりません」と考えて死火山の煤はらいをした。休火山なら、近いうちにきっと噴火すると思ってもっと念入りに煤はらいをしたにちがいない。

休火山という語は、その火山がもう噴火しないと誤解を与えるから使うべきでないとする論があるが、これは誤っている。休火山という語には、いまは休んでいるだけであって、そのうちむっくりと起き上がって噴火するだろうという予測が含まれている。生きている火山であって、まだ死んでいないと判定しているわけだ。

「休火山の語を使うのはやめて、それらは活火山というべきである」とする指導がわが国で40年ほど前に中央行政として実施された。日本火山学界のほとんどもこの行政に追従して、休火山の語を日本語から消滅させようと企図してきた。「休火山という語は、いまは使われません」と勝手に裁定するひとまでいた。

しかし、休火山の語がもう噴火しないことを意味すると決めつけるのは、国民を愚弄している。池澤夏樹訳の星の王子さまを読んだ日本国民は、休火山が近い将来噴火するのは当たり前で、死火山ですら噴火するかもしれないと覚悟している。

活火山・休火山・死火山の三分類は、火山噴火の危険と火山の寿命を考えるときにたいへんわかりやすい表記法である。休火山という語を使うことによって、火山の寿命は人間の寿命よりずっと長く、短期間のみかけだけではその危険性を正しく判断できないことをうまく伝えることができる。休火山はいま眠っているから静かなだけであって、将来いつかむっくり起き出して激しい噴火をするかもしれないことを教えられて理解できないひとは、いない。

眠っている火山は、その核心部まで立ち入って火山の驚異を存分に楽しむことができる格好の学習対象だ。休火山という語を捨てることは、この機会を捨てることに直結する。火山防災のために格好の教材を利用しないことにつながる。もったいないことだ。

この三分類は日本語だけでなく、フランス語(volcan actif, volcan dormant, volcan eteint)にも、英語(active volcano, dormant volcano, extinct volcano)にも、みられる。長い時間をかけてつくられた文化を背負った語である。日本語は、おそらく明治期に、フランス語か英語を翻訳してつくられたのだろう。この三分類をいま日本で放棄する理由はどこにもない。火山防災のために、むしろ積極的に使うべき語である。


昔からある岩波書店の内藤濯訳では休火山と訳されているが、フランス語はvolcan eteintと書かれているから、原文に忠実に訳すと死火山が正しい。

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