早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

裁判初体験 交差点の出会い頭の事故で10対0判決

裁判は、いまの日本では、非日常的なものであり、特別なひとだけが関わるものだとみなされているようです。しかし私は、そうではないはずだと思うし、裁判が日本でもっと身近なものになるのがよいと考えています。このたび、裁判を初めて経験したので報告します。被告ではなく原告でした。

昨年(2008年)7月に交通事故にあいました。センターラインが貫通する優先道路を走行中、左から飛び出してきた車に衝突されました。私の車の損傷はひどくて廃車になりました。相手方保険会社の査定によると私の車の価値は60万円余でした。相手も廃車になったようで、その価値は30万円くらいだったそうです。相手方保険会社の主張は、類例によって9対1の過失割合で損失補償するというものでした。私に1割の過失があったので損失額全体の1割を負担しろとの主張でした。

私は自分に過失があったと考えていません。私にはあの事故を防ぐすべがひとつもなかったと考えます。そして、損失全額を相手に負担してほしいという要求を掲げて、裁判を申し出ました。争う金額が140万円以下なので、簡易裁判所で損害賠償請求事件として扱ってもらうことになりました。裁判にかかる弁護士費用その他は私の保険会社から150万円まで出る契約になっていましたから、私に費用負担は発生しません。


裁判では3回の口頭弁論がおこなわれました。11月と12月の口頭弁論は弁護士だけが出席しました。口頭弁論が終わるたびに弁護士から電子メールで報告を受けました。弁護士は、意見を書面にして裁判所に提出してありました。

第3回目の口頭弁論は、原告である私と被告が出席して、3月に当事者尋問としておこなわれました。私は勤務先から年休を取得して出席しました。裁判は公開です。傍聴席には私の保険代理店と相手の配偶者が座っていました。裁判官はひとり。その右側に裁判委員(?)がひとり座っていました。和解調停のときに働くそうです。裁判官の前下に記録係がひとり座っていました。原告席には、裁判官に近いほうから、弁護士と私、被告席には同様に弁護士と被告が座りました。

開廷直後、私は証人席に立って宣誓するよう言われました。開廷前に署名捺印した宣誓書が渡され、それを朗読しました。ウソをつきませんという内容です。当事者尋問は、弁護士が裁判所に提出した意見書面の証拠とするものです。テープに録音されます。テープを起こして文字にする場合もあるようですが、今回はテープのまま証拠として採用すると裁判長が告げました。

まず原告(私)、次に被告への尋問がありました。それぞれまず自分方弁護士から、次に相手方弁護士から、最後に裁判官からの順で尋問がありました。ただし私への裁判官尋問はありませんでした。尋問は短い質問と短い答えの繰り返しからなります。聞かれたことに過不足なく答えることが望まれます。多くの場合、「はい」または「いいえ」の答え(だけ)が期待されます。聞かれていないことまで答えることはできません。そして、証人が意見を述べることは許されていません。質問に対して、知っていることを包み隠さず的確に申し述べよということのようでした。ただし、意見を言いたい場合は、あらかじめ弁護士と相談しておいて、意見を含めた答えがしやすい質問をしてもらう工夫をする余地があるそうです。

私は資料を手に持って証人席に進みましたが、すぐ弁護士に資料を取り上げられました。証人席では記憶のみに基づいて発言する決まりだそうです。着席して答えます。口元にはマイクがあります。

尋問は、事故の状況再現に焦点が当てられました。どの地点で相手を認識したかとか、右を見たかどうかなどでした。私に過失があったかなかったかの議論はありませんでした。写真や図面は、裁判官と双方弁護士が同じファイルを持っていて、そのどの部分を証人に示すかを弁護士が説明した上で尋問に使われました。弁護士が近寄ってきて、私の目の前に写真や図面が差し出されました。被告の証言のなかに、私からみると事実ではないと思われる発言がありましたが、そう指摘する機会は私に与えられませんでした。

最後に裁判官が妥協と和解の可能性があるかどうか尋ねました。過失割合10%を5%に減じることによる決着を想定した発言だと思われました。これに対して私は「その可能性はありません。金銭のために裁判をお願いしたのではありません。過失がないと信じるのに過失があったとして過失相殺されることが納得できないから、裁判をお願いしました。したがって、妥協することはありません」と答えました。裁判官は、「わかりました。では次回は判決に進みます」と発言して閉廷しました。1時間ほどでした。

あとで弁護士に聞くと、裁判官が和解を勧めるのはよくあることだそうです。和解が成立すれば裁判官は判決文を書かなくてよくなります。

判決は4月に出ます。判決言い渡しは単に「被告は原告に○○円支払え」と述べられるだけで、言い渡しに出席しても判決文を見ないと内容がわからないそうです。弁護士は出席しないというので、私も出席しません。判決文が到着するのを待ちます。

裁判を初めて体験してみて、それはごく普通の日常的な営みであることがわかりました。とくに時間がかかるとか、とくに難解だということはありません。たいへん合理的にことが進みます。そのプロセスとそこで話される内容は、一般人にも容易に理解可能です。経費も、私のように保険から支出されればまったく問題ないし、もし自己負担だとしても10万円とか20万円とかのようです。もちろん勝訴すれば、費用は相手方が負担します。社会生活において何か不満があったら、気軽に裁判に訴えて司法の判断を求めるのが健全だと思います。

たかが10万円余のためになぜ裁判を起こしたのかと疑問をもたれる方がいらっしゃるかもしれません。最後に感情的な部分を書いておきましょう。事故後まもなく、相手方弁護士から内容証明郵便が届きました。そこには、
  1) 類例だと、このような交差点事故での過失割合は9対1になる。
  2) それに従わない貴殿は賢明でない。
と書いてありました。穏便な話し合いを経ずにいきなり内容証明郵便という対決手段を行使したこと、個別事例として考えることをせずに類例を持ち出してそれにあたかも強制力があるかのごとく振りかざしたこと、賢明でないと私のことを愚かであると決め付けたこと。これらを、私はたいへん不満に思いました。立腹しました。この感情を相手に見えるかたちで意思表示するのがよいと信じました。そして幸いにも、弁護士費用が保険でカバーされたのです。


(2009.4.30追記)
「本件事故について、原告には過失がないことになる」を結論とする判決文が届きました。裁判官は原告である私の主張を全面的に認めて10対0の賠償を言い渡しました。被告は控訴しないとのことですので、確定です。交差点の出会い頭の事故で10対0が認められたのは、たいへんめずらしいそうです。私の保険担当者は「聞いたことがない」と驚いていました。

コメント

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  • 2009/03/29(日) 12:57:53 |
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ありがとうございます

素晴らしい対応だと思います。

自動車関連事業に従事していて、保険会社に対するしがらみもあると、なかなかこういう対応が出来ません。100:0を主張されてその判例を残してくださった問いことに純粋に感謝いたします。

  • 2010/03/07(日) 21:19:20 |
  • URL |
  • knowsay #-
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素晴らしい

私も以前、給与の支払いを求めて元の会社を訴えたことがあります。先生のご意見と同じで、泣き寝入りしないことは大切と思います。世間の常識のような線を振りかざして、丸め込もうとする会社から、「業界にいられなくなる」とも恫喝されました。監督署から指導が入っても罰則がないことをよいことに不払いという社長。
結局、金額も大きい(数百万円)ので弁護士を雇いました。証拠書類をそろえ、論点を整理。期日に地裁に行くと、先方は出頭せず即、判決ということに。ところが、払う気のない会社から取り立てるのは難しいということで、取引先(政府機関です)に差し押さえをかけました。その結果、指名停止ならびに、現在契約中のものについても契約破棄のおそれということで、翌日振り込まれました。
必要なときに必要な行政サービスを利用することは、非常に大切です。特に法人と争う個人にとっては。個人の力は限られていますから。

  • 2011/09/16(金) 12:09:25 |
  • URL |
  • 東京人 #-
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昔、クルマを止めて(エンジンも止めて)いるところに衝突された時、自分の保険会社は「過失割合がゼロなので保険では対処できない」といい一切の調査等をしませんでした。

「出会い頭の衝突事故で10:0が認められうる」との認識を保険会社の担当が持っていなかったのは、この点で幸いだったかもしれません。

  • 2011/10/23(日) 14:02:07 |
  • URL |
  • ef #-
  • [ 編集]

こんにちは。私も同じ態様の事故で現在係争中で、先日尋問が終わったところです。こちらはおそらく90:10で判決を書かれそうな情勢です。早川さんの判例は大変参考になりそうです。よろしけば、検索してみたいので、どこの裁判所のいつの判例かを教えてもらうことはできませんか?もし公開がまずければメールアドレスをお伝えすることもできますので、何卒お力を貸していただろけますよう、よろしくお願い申し上げます。

  • 2015/09/09(水) 09:52:46 |
  • URL |
  • える #mQop/nM.
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  • 2015/09/10(木) 12:47:39 |
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