早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

関東ロームは富士山の噴火堆積物ではない

ロームはホコリが積もってできた

赤土とも言われる関東ロームは、関東平野の西にある富士山や浅間山が噴火して降り積もった火山灰だとふつう説明される。しかし、それは間違いだ。ほんとうは、河原の砂泥や畑の土が春の強風で巻き上げられて風下に降り積もってできた。つまりホコリだ。

火山はめったに噴火しない。富士山はもう300年も眠っている。いっぽうロームは毎年0.1ミリ、100年で1センチ、1万年で1メートル積もる。関東地方の河原や畑には火山灰がたくさん露出しているから、関東ロームの構成物にも火山灰が多い。

関東ロームを水洗いして中から鉱物をみつける実験手順が学校教科書にのっている。そうやって石英だの角閃石だのを子どもたちに自分でみつけさせて顕微鏡の下で観察させる手順はよいのだが、「火山灰がはいっているからローム層は火山の噴火でできた」と結論させるのは間違っている。

火山が噴火しなくても、ロームは毎年積もる。火山が噴火すると、ロームの間に軽石や火山灰が挟まれる。宝永スコリアや東京軽石だ。最近1万年間のロームは、不思議に黒い。黒土あるいはクロボクという。人間が植生をいじった結果らしい。

噴火で東京に火山灰が1ミリ積もっても、たいへんなことになる。2009年2月2日の浅間山噴火で横浜に降り積もった火山灰はわずか0.001ミリだった。もし、あの1000倍の噴火が10年に1度起こるのなら、東京にはとても住めないはず。でも実際には住んでいる。

毎年0.1ミリのロームは、4月5月の60日に毎日0.002ミリずつホコリとして堆積してできた。だから、関東の春は掃除がたいへんだ。関西でも春の掃除はやっかいだろうが、関東と比べたら、ましである。関西には、風で飛びやすい火山灰の露出が少ない。


ローム堆積の季節変化と地域変化

ホコリがなぜ4月5月に集中するかというと、地面が緑でまだ覆われていないから。そしてその時期は強風が吹きやすい。太陽高度が高くて、地表が乾燥しやすい効果がこれに上乗せされる。6月の梅雨の時期をすぎると、日本の地表は緑ですっかり覆われるから、ちょっとやそっとの風ではホコリがたたなくなる。

冬は、緑が枯れて土が露出するが、気温が低いために湿っていて、風が吹いてもホコリがたちにくい。地面が乾くのは、桜が開花するころ。だから日本の花見は、ときにジャリジャリでひどい目にあう。

ローム層の堆積には気候が重要だ。ロームは世界中どこにでもあるものではない。日本にはもっとも有利な条件が整っている。ニュージーランド北島もそうだ。アイスランドとカスケード(北米)には、ロームに似るがやや違う泥炭が堆積している。大陸の真ん中や地中海の火山にロームはほとんどない。乾燥していてホコリは舞うが、植生がまばらなため定着しない。

熱帯はよくわからない。最近1万年をみると、噴火で降り積もった軽石や火山灰の上下に黒土があるが、古い時代はよくわからない。ジャングルで露出がほとんどないので調べられていない。


地層は過去を調べる唯一の情報源

過去の情報を現在に伝える唯一の物質が地層だ。地層が過去に起こったどんなプロセスでできたかは、その構成物の種類を調べるだけではわからない。堆積学的な考察が必要だ。物理のひとには流体力学といっておこう。ロームを実験室に持ち帰って水洗いする手順は、過去を知るための重要なプロセスを切り捨てたやり方である。

そのやり方にも、それなりの価値はあろう。石英や角閃石の鉱物学的特徴を学ぶことができる。しかし過去に起こった事件を復元したいと思うのなら、ロームが野外に置かれたままの状態でその特徴を調べる必要がある。崖を下から上まで丹念に観察する。あたりをうろうろ回って分布を調べて地図をつくる、などだ。

実験室に持ち帰って分析する手法は簡単だし、確立されているし、安全だから、教科書には載る。でも、大切なことを現地に置き去りにしてしまっていないか。


もっと詳しく知りたい人へ

私のローム研究は、1990年代に精力的に行ったものだ。いまウェブでは、1996年に書いた文章を紹介している。大学生向けに書いた教科書の一部だ。私はその後、他者を説得することをやめ、自分の考えが正しいことを前提とした噴火データベースづくりに進んだ。噴火2000年とテフラ100万年からなる。後者は日本を6地域に分けてつくっている。

ほかには、ロームがまさに堆積した日のレポート「1999年5月25日の強風とレス形成プロセス」の末尾に、1995年に書いた論文の一部が掲げてある。フィールド火山学10章のいくつかのページも参考にしてほしい。カラー写真を活用した解説だ。

レス(loess)は風塵の堆積物をいうドイツ語。氷河の周りに積もった地層を指す。中国の黄土もレスだと国際的に認められている。それなら、関東ロームもレスだというべきだというのが私の主張だ。なお黄砂という気象用語があるが、あれは砂よりずっと細かい微粒子である。日本の地層形成への貢献はゼロではないが小さい。



@Y_Suzukiさんによるまとめ 2010年9月16日「関東ロームってどうやってできたの?



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埼玉県北西部、2013年2月24日 @kutaromichikusa

コメント

ありがとうございます

関東ローム層は富士山の火山灰で出来たと生前の祖母がどこかで聞いたというのを聞いて、孫の私もそう思っていました。今はネブラスカ州にいますが、IndianCaveNationalParkというところもほこりが堆積して出来たと書いてありました。貴重な情報ありがとうございました。

ありがとうございます 本日TWITTERでこのページリンクが切れていると呟いたものです・・311以降の早川先生の心ある行動に痛く感謝しているものです。色々ひどい言葉を突きつける方も多いようですが。早川さんのような本当の学者がこれからの日本をひっぱって行くようにな日が来るとと、強く信じています。これからもよろしくお願いします・

  • 2012/03/01(木) 13:30:26 |
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  • KEIJU #Z1IwPY76
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  • 2014/06/15(日) 12:33:39 |
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