早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

親権一時停止とビタミンK不投与問題

親権を一時停止する法案がまとまった(読売新聞朝刊)。これまでは、親権「喪失」しかなかった。一時停止の仕組みがこれに加わる。児童虐待の問題に、裁判所がもっと積極的にかかわったほうがよいとする判断が反映されている。虐待事例をみつけた児童相談所は、これまでよりずっと気軽に親権停止の申し立てを裁判所に行うことできるようになる。

山口で、ビタミンKが投与されないまま脳出血で死亡した乳児の事例を考えてみよう。乳児はビタミンKの投与不投与を判断できないから、助産師が勝手に不投与を決めてはならない(投与が必須だった)とする論がある。しかしこの論は、親権をもつ母親の存在を忘れている。そのとき投与不投与を判断する全権は母親のもとにあった。

ビタミンK投与は標準医療だから、それを怠った助産師に重大な責任があるとする論がある。助産師に責任を負わせるだけでこれをすませてよいだろうか。ビタミンK投与が標準医療であって、それは(親権者が意図して拒絶する場合を除いて)すべての乳児に施されなければならない処置だというなら、社会は、それを確実に行うための仕組みをつくる責任を負う。たとえば、1)母子手帳にビタミンK投与日を書く欄を設ける、2)保健婦が母子に面会したらまず初めにビタミンK投与の有無を確認する、など複数の関所を設けた形状管理が必要だ。

山口で使われてる母子手帳にビタミンK投与日を書く欄があるかどうか調べてないが、もしあれば、そこがなぜ空欄なのか母親はいぶかしく思っただろう。ビタミンKを何のために投与するかも母子手帳に説明してあるとよい。(追記参照)

山口の事例ではないのだろうが、「あの助産院はビタミンKを投与してないのよ」といった噂が保健所内で語られることがあるという。専門機関が知っていても放置している実態がここにある。親権の一時停止法案と同様の考え方で、乳児にビタミンKを確実に投与する社会的仕組みを急いで整える必要がある。


(12月17日6時追記)
山口の件の母子手帳にはビタミンKの欄があって助産師がそこに投与したと虚偽記載したと8月に報道されたのは承知している。しかし、母子手帳のコピーなどの証拠を示した報道はひとつもない。民事で訴えられた助産師は、争う構えをみせたという。したがって、母子手帳に関しては、欄があるかどうかも含めて、確かな事実がわかっていないと私は認識する。新聞報道に依拠して事実を認識する方法を私はとらない。裏づけとなる客観的証拠が示されて初めて信用する。これが、会長談話とは決定的に違う科学者としての私の態度である。

(12月23日7時追記)
和解成立を受けて、日本ホメオパシー医学協会がコメントを出しました。
そこには、この事件についてこれまで語られなかった多数の(助産師側の)認識が書かれています。

・「原告(従前からホメオパシー利用者でした)」
・「訴状にはホメオパシーを原因とするとの記載は一切なく」
・「助産師は、母子手帳に「K2シロップ投与」と記載しておかないと、検診時に小児科などで勝手にK2シロップを飲まされるので、原告の意向を受けて、K2シロップを「投与した」と記載した」
・「K2シロップ投与という記載は、母親の前で、母親の同意をもらって行った」
・「今回亡くなったのは、第二子であり、第一子の時にもこの助産師が対応していました。第一子の時は、母親に「何もいらない」と言われたので、ビタミンK2シロップも同様に与えていなかったということです」
・「母親は、第一子の時から、(薬などを)何も使用しないで欲しい、と繰り返し述べていた」
・「助産師は「ビタミンK2シロップに関してはもちろん理解し、なぜビタミンKを与えるのかという説明の中で、ビタミンKは止血作用があり、頭蓋内出血の予防のために与える」と説明したと述べています」


日本ホメオパシー医学協会は、原告から訴えられた側に当たります。そこがこのように書いたのですから、母子手帳に投与欄があって、助産師がそこに「K2シロップ投与」と書いた事実があったと認めるのが適当でしょう。

上に掲げた被告側の認識の中には、原告の主張と真っ向から対立する意見がみられます。しかし真実は、「内容を口外しない」和解が成立したことによって闇の中に葬られてしまいました。意見だけでなく事実の陳述もあります。上に挙げたシロップ投与記載のほかに、母親が前からホメオパシー利用者だったこと、第一子のときも同じ助産師が対応したこと、です。これらは信用できそうです。もし不安ならば確かめる方法があります。助産師が保存しているはずの記録をみればよい。

コメント

こんにちは!kazankunアイコンのファンです。

わたしはちょっと日本語の読解力に自信がないので、このエントリのなかで、もしかしたら読み違えをしているかも、と不安に思った点について、質問させていただきます。もしよろしければ、お答えください。

まず、「(12月17日6時追記)」の、
▼以下引用▼
山口の件の母子手帳にはビタミンKの欄があって助産師がそこに投与したと虚偽記載したと報道されたのは承知している。
▲以上引用▲
という文は、
“エントリ本文を書いた当初から、そのような新聞報道の存在については認識していた”という意味でしょうか?

また、おなじく追記の、
▼以下引用▼
母子手帳に関しては、欄があるかどうかも含めて、確かな事実がわかっていないと私は認識する
▲以上引用▲
というのは、つまり、
“「山口の件の母子手帳」に「ビタミンKの欄」があったかどうか、および、(仮に欄があったとしても)そこに虚偽記載がなされたか否かはわからない、というのが、エントリ本文を書いた当初からの早川先生の認識である”ということでしょうか?

以上二点、Yes/Noでのお答えをいただけますと、非常にありがたく思います(Noの場合には、正しい意味についての解説もあると、とってもうれしいです)。

あ、あと、エントリとは全然関係ないのですが、kazankunアイコンのファイル名("kazankun01-3.png"など)に現われる数字の意味が、いちファンとして、ちょっと気になっています。あれは、なんらかのルールによって決定されているんでしょうか?

  • 2010/12/18(土) 11:32:49 |
  • URL |
  • ぽんぽやじ #-
  • [ 編集]

第一の質問の答えは、イエスでもノーでもありません。本文を書いたときは、新聞報道に思いを致していませんでした。ツイッターでの指摘を読んで、手元のアーカイブをみて、そういう新聞報道があったことを思い出しました。

第二の質問の答えはイエスです。

アイコンのファイル名の数字は、識別のためにつけてあります。意味はありません。

  • 2010/12/18(土) 14:52:43 |
  • URL |
  • 早川由紀夫 #eWKQhjJU
  • [ 編集]

お返事ありがとうございます!
第一・および第二の質問へのお答え、了解いたしました。「承知している」は、“失念していたが、知らなかったわけではない。そして、指摘のおかげで、いまや思い出すことができた”というような意味でしたか。インターネットにはいろいろと教えてくれるひとがいて、ありがたいですよね。

kazankunの数字には、意味がありませんでしたか……。当初、目やくちのかたちと対応しているんだろうな、と考えていたのですが、アイコンの種類が増えるにつれてうまく説明できなくなったので、あれっと思い、質問させていただきました。しょうもない質問にお答えくださって、ありがとうございました。今後も、新しいkazankunアイコンが出るたび、保存していきたいと思っています。

  • 2010/12/18(土) 17:13:20 |
  • URL |
  • ぽんぽやじ #-
  • [ 編集]

裁判があったことは,何を根拠に信用したのでしょうか?

  • 2010/12/22(水) 20:39:20 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集]

テレビ新聞など各社の報道、あるブログ、ホメオパシー団体によるインターネット上の声明などです。独立した複数の情報源が同じことを言っているときは、それを事実だろうと推定します。裁判があった事実は、利害を異にする情報源が同じことを言っているのでほぼ確実だと思われます。

きょうのスポニチには山口地裁の裁判長の名前まで出ています。その必要はもはやないと思いますが、必要なら山口地裁に問い合わせることによって、裁判があった事実を確かめることができます。

これは、文字史料を使った過去の火山噴火の研究手法を応用したものです。昔のひともウソを書いたり勘違いをします。たとえば平安時代1108年に起こった浅間山の噴火は、京都に住んでいた二人の公家の日記に出てきます。藤原宗忠の日記『中右記』と藤原忠実の日記『殿暦』です。白河院が登場したり記述はたいへん具体的です。二つの日記に書かれた鳴動の日付が一致します。これに加えて、現地で噴火堆積物(物証)を調査して文字記録と照合して矛盾がないかどうかを確かめてから、事実を認めます。

古記録にあるからだけの理由で過去の火山噴火を認める手法を、少し前までの火山学界はとってきましたが、いまはそういう方法をとりません。とっても信用されません。

  • 2010/12/22(水) 20:58:01 |
  • URL |
  • 早川由紀夫 #eWKQhjJU
  • [ 編集]

どうもありがとうございます。複数の独立な情報源を参照するということ,納得しました。(「過去の火山噴火の研究手法を応用」のところはよくわかりませんでした。今回の問題にまっこうから対応させるならば,裁判所に問い合わせる必要があるように思います。念のために書きますとこれは「過去の火山噴火の研究手法」に言及する理由がよくわからないということで,ご回答の前半部分には納得しております)

  • 2010/12/23(木) 21:07:35 |
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  • #-
  • [ 編集]

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