(神奈川)県は15日、三浦半島から県西部にかけた相模湾沿岸部の広範囲で、黒い粉じんが飛散していたことを確認したと発表した。健康被害の報告は受けていないが、県が原因を調べている。
テレビ朝日のニュースが、黒い砂の写真や分布地図を示しているのでわかりやすい。車の上に黒い砂が確認された市町は富士山から一直線に東に伸びてる。粒の大きさは0.1ミリ程度だという。謎を帯びたこの記述は、まるで古代中世に書かれた古記録の世界のようだ。
富士山の表面をつくっている黒い軽石(スコリア)の細粉が強風で飛ばされたものだろう。運搬と堆積のメカニズムは、私がいうレスの範疇にはいる。報告された0.1ミリというサイズは納得がいく。
昨日午前、御殿場は晴れて5m/sの風が吹いた。まだ積雪がない須走あたりから砂が舞い上がったのだろう。森の木々は葉を落とし、草も枯れて、いまは地表が露出している。したがって、きのう神奈川県に降った砂の主たる構成物質は、1707年の宝永噴火で噴出してその地域の地表を覆っていたスコリアだろう。
気象庁のウインドプロファイラのページをみると、昨日の午前中、富士山から神奈川県にかけての高度3キロ付近の風はとても強かった。40m/sを超えた。
噴火しなくても富士山から砂が巻き上げられて関東平野に降り積もる事例が、関東平野で生活している人々の記憶に残るといい。これが何度も繰り返されれば、関東ロームが富士山の噴火で降り積もったと誤解する人はそのうちいなくなるだろう。

15日14時02分、鎌倉市城廻、神奈川県提供(アサヒコムより)
この写真から降灰量を判定すると、0.3g/m2程度だったとみられる。2009年2月2日の浅間山噴火で放出された火山灰の量は2万4000トンだった。今回降った砂の量はその1/100から1/1000で、100トン程度だったと見積もられる。富士山麓の幅100メートル・長さ1000メートルの面積から、均一に1ミリ削り取れば生産できる。
なぜ、きのう報告されたか。そのような日常的メカニズムならいままでも頻繁に報告されていてよさそうだと考えるひともいるだろう。私の考えはこうだ。情報化が進んでreporting indexが上がり、閾値を超えたのだと思う。現象としては以前からあったが、最近になって初めてみんなに知られるようになった、と考える。
おたまじゃくしが空から降る現象も、去年から広く知られるようになった。どうやら各地で毎年ふつうに起こっている現象らしいことがわかってきた。今年もニュースになった。ニュースとして取り上げられると人々の注目がそこに集中するから、報告件数が増える。
9月に書いた関連記事 「関東ロームは富士山の噴火堆積物ではない」
富士山から砂塵が巻き上がる様子をFNNが16日夕刻のニュースで紹介した。私の推論が正しかったことを示す重要な証拠映像だ。
15日午前6時45分ごろ、富士山の東側・山中湖畔から撮った3合目付近の映像では、黒い粉じんのようなものが舞い上がっていた。毎日のように富士山を撮影しているという遠山喜一郎さんは、「今までに見たことのない規模の砂嵐で、大変なことになっているなと」と話した。1時間余り、断続的に見られたという砂嵐。


遠山喜一郎さんが15日午前6時45分ごろ撮影した映像。FNN動画からキャプチャした。
茶色い砂塵が富士山の麓から高さ1000メートル程度まで巻き上がってる。地表付近を漂う白い雲は何だろうか。(おそらく朝霧だろう)
FNNニュースを注意深く見ると、富士山に近い大井町に降り積もった砂の大きさは鎌倉市に降り積もった砂よりずいぶん粗いようにみえる。給源が富士山であることを示唆する証拠だ。


同じくFNN動画からキャプチャした。
12月18日

山梨県山中湖村の浅見紀之さん撮影。毎日新聞神奈川より
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読売新聞
読売新聞は、過去の同様事例についても取材して、次のように報告している。
飛散した粉じんは主に15日に確認されたものだが、開成町では1週間前の7日にも、同じ物質の粉じんが採取されていた。
このように、ある現象に人々の関心が集中すると、同様の現象が過去に遡って発掘されることがよくある。現象が今回初めて起こったのではなく、人々が現象に今回初めて注目したのである。人々が注目しない限り、過去の現象は時間の経過とともに記憶から薄れてしまう。
約10年間にわたって富士山の写真を撮り続けている山梨県富士吉田市の貸別荘経営、遠山喜一郎さん(60)は15日朝、山中湖畔で富士山を撮影しているときに黒い砂が舞うのを目撃した。遠山さんは約3年前にも同じ現象を見たといい、「今回は当時の10倍ほどの規模で、黒い雲のようだった」と話している。
この遠山さんは、FNNに動画を提供したひとだ。この部分は読売新聞のお手柄だが、約3年前が何月だったか聞いてほしかった。この現象には季節性があるはずだから。
12月19日

神奈川県環境農政局が12月17日に公表した分布図に、富士山宝永火口の位置を記入した。黒い砂が15日に確認された市町が、宝永火口から東に伸びる一直線上にあることがわかる。宝永火口から逗子市までの距離は75キロである。16日以降に確認された市町はその縁辺部に当たる。
maia (16220) : 2010年12月18日 12時23分 (#1875893) 日記
富士山強風説でFAだと思うのですが、カナコロはしつこいですぞ。横浜地方気象台は「御殿場などで粉じんが未確認のため可能性は低い」と言っていたらしい。なぜか私は今足柄SAに来ているので、周りを観察してみたが、痕跡は全く見つけられず。まあ、御殿場付近で仮に発見されていないとしたら(見つかっているのかもしれないが)、そうなる(御殿場に降下しない)メカニズムには興味がある。上空にまきあげられた場合には、そういうものなのか?
御殿場に降らずに湘南に降ったメカニズムを解説します。
直径10センチ以下の固体が大気中を落下するときは、重力によって加速し続けることは実現しない。空気抵抗のために一定速度を維持して落下する。これを終端速度という。雨粒の挙動を思い出してみるとよい。終端速度は粒子のサイズに比例する。
15日に富士山東麓で、風で巻上げられて高さ3キロまで達した火山灰のサイズは1ミリを超えなかった。だから、近場の御殿場には降りたくても降れなかった。10ミリ程度の粒子が皆無だったからだ。
巻き上がった粒子は(噴火で高空にもたらされた粒子も)それぞれ自分のサイズによって、滞空時間が決まっている。その許された時間の中で横風に乗って移動する。15日は高さ3キロでも40m/sを超える強い風が吹いていた。0.1ミリの粒子は許された30分の滞空時間の中で75キロを移動して逗子に降った(40m/sは時速144キロに等しい)。