早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

甲状腺スクリーニング検査結果の考察

福島県で、原発に近い地域に住んでいた子ども3万8000人を23年度にスクリーング検査したら、甲状腺がんが10人みつかった。そのうち3人はすでに手術してがんを摘出した。経過は良好だという。

おととし3月、大きな地震と津波のあと、福島第一原発の運転が正常にできなくなって、大量の放射性物質が空中に放出された。そのとき、福島県内と東日本の大気中を漂ったヨウ素を直接吸い込んだり、後日食物といっしょに取り込んだ人が、身体に深刻な害を受けたのではないだろうかと懸念されている。

ヨウ素は甲状腺に溜まりやすい。チェルノブイリでは、事故後しばらくしてから小児甲状腺がんが多発した。小児甲状腺がんは、100万人に毎年1人か2人しか発症しないたいへんめずらしいがんである。これほどめずらしいがんが福島県で3万8000人に10人もいきなりみつかったのは、おととし3月の原発事故のせいでないかと疑われる。しかしよく考えてみると、どうやらそうではないらしい。

福島県では24年度も続いて甲状腺スクリーニング検査を実施している。中通りなど、原発に近い地域ほどヨウ素の摂取が多くなかったと見込まれる地域の子どもたち対象だ。がんの人数はまだ発表されていないが、5ミリ以上のしこり(B判定)があった子どもの割合は0.6%だった。原発に近い地域を調べた23年度はこれより少ない0.5%だった。

原発事故の影響がほとんどなかったと思われる弘前・甲府・長崎で同様のスクリーニング検査を環境省がしたところ、B判定は1.0%だった。

しこりの有無で判断する限り、子どもの甲状腺にいま原発事故の影響は認められない。ヨウ素の摂取量とB判定割合に相関はない。

この甲状腺スクリーニング検査は、もともとけっこうあったのだけれど、いままで知られていなかった甲状腺異常を、最新式の高性能超音波検査システムによって洗い出したものとみられる。おとなり韓国でも、近年の超音波検査の普及に伴って甲状腺異常が多数みつかっているという。


また、病気を持っている割合と病気が発見される割合がまったく別であることも知っておく必要がある。上に書いた100万人に1人か2人は病気が発見される人の1年あたりの数である。病気を持っている人の数ではない。発見されるより桁違いに多い数の人が何も症状が出ないまま、何も不自由を感じないまま、病気を持っていてもそれにわずらわされることなく健康に暮らしていると考えられる。

このスクリーニング検査は、高性能の医療検査技術によって、そういったひとたちを片っぱしからみつけ出してしまったのだと考えられる。

チェルノブイリでは、小学生以下の小さな子どもに甲状腺がんが多発した。いっぽう福島でみつかった甲状腺がんは中学生あるいはそれ以上らしい(手術した3人の平均年齢が15歳とだけ公表されている)。原発事故に原因があることが確かなチェルノブイリの甲状腺がんとは異なる年齢分布を福島では示す。性別も、男性3人、女性7人で、通常の甲状腺がんと変わらない。

福島でみつかった甲状腺がんが、おととしの原発事故のせいでないのなら、手術してがんを摘出した医療行為ははたして適切だったろうか。切らなくてもよかったがんを切ってしまった可能性はないか。これからもこの方針で切り続けるつもりなのか。

そもそもこのような20万人を超える大規模なスクリーニング検査を実施することは、そして無関係の遠隔地で対照検査することは、医療倫理に抵触するのではないか。

いま甲状腺スクリーニング検査を実施している行政組織(福島県と環境省)には、このことをいま一度よく考えてから検査体制を再構築してもらいたい。

(早川由紀夫 2013年3月30日)

・資料へのリンクや表が、このカテゴリの最近エントリにあります。

(追補)

福島23年度10人のがんのうちいくつかが原発事故由来だった場合を考える。たとえば、すでに手術した(重症)3人が原発事故由来だったと想定する。

しこりB判定の割合が、福島24年度も他3県も変わらないことが説明しにくい。(他3県が1.0%と多いことは、被験者の年齢層が高かったことを補正すれば0.6%くらいまで下がりそうだ。)

10人のがんのより詳しい情報、そして福島24年度だけでなく他3県も含めたB判定600人の二次検査結果(がんの数を含む)がわかれば、この可能性の当否を検討できるだろうが、上に書いたように医療倫理の問題がある。それを積極的に推し進めるべきかどうか悩ましい。

がんが原発事故由来だったと認めることは、この原発事故へのこの国の見解を大きく転換することになるから、なかなかできそうにないことだ。だから、原発事故由来を認めない国はウソをついているにちがいないと思いがちだが、かならずしもそうはならない。事実は、そのような政治的思惑から離れて、科学的に客観的に希求されなければならない。

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