早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

放射能に汚染された日時(改訂)

2012年7月21日に書いた文章(放射能汚染地図七訂版の裏面に掲載)を、その後獲得した知見で改訂します。

放射性物質にどこが汚染されるかを決めたのは風です。噴火によって火山から吐き出された火山灰は上空数kmから十数kmを吹く高空の風で移動しますが、原発から漏れ出した放射性物質は地表近くの風に乗って移動しました。当時の気象データを見ると、上空1km以上の風向きではこの分布を説明できません。放射性物質は高さ数十mの風に乗って地表をなめるように移動したと思われます。目に見えない霧が地表を移動して行ったとみなすと理解しやすいでしょう。等値線が盆地や山肌など地形の起伏を感じ取っているのはそのためです。

まず、2011年3月12日21時に南相馬を通過した放射能霧 (radioactive fog) が仙台湾を越えて、翌13日2時に女川を通過しました。さらに北上を続けて早池峰山を経て盛岡まで達しました。弘前大学の3月16日ルート測定のときに、盛岡がすでに汚染されていたことがわかっています。

15日にもっともひどい汚染が生じました。前日の14日23時に原発を出発した放射能霧は、4時にいわきを通過して、6時には関東平野に達しました。しかし予報されたにもかかわらずそこでは雨が降らなかったため、そのまま西と北に向かって24時間後に関東山地と群馬栃木北部の山々に突き当たりました。そこで初めて雨に出会って放射性物質が地表にたたき落とされました。那須高原と福島中通り南部もこのとき汚染されました。放射能霧の移動速度は 4m/s(時速14キロ)。24時間かけて340キロを移動しました。

福島中通り北部が汚染されたのもこの日でした。お昼前の11時に出発した放射能霧は、18時ころ飯舘・福島・二本松に達しました。阿武隈山地を越えて福島盆地に入り込んだこの放射性物質は雪といっしょに地表に降り積もりました。その移動速度は 2m/s(時速7キロ)でした。原発から出たばかりの11時は、北風だったのでいったん南に流されましたが、すぐ風向きが変わって北西方向に突き進みました。汚染の帯が原発を通らないのは、このためです。
この日3度目、夕刻18時に出発した放射能霧は、11時に出発した放射能霧が通過した帯のすぐ北側を平行に進んで、双葉厚生病院から吉沢牧場に向かう細い汚染帯をつくりました。

会津盆地は前夜23時に出発して24時間かけて戻って来た放射能霧にも汚染されましたが、11時に出発して福島盆地を経由して侵入してきた放射能霧でよりひどく汚染されました。

(ここに書いた3月15日の汚染時刻とルートの解明には、@neko3no3teさんの貢献が大きい)

20日夕刻、宮城/山形県境と岩手県南部が汚染されました。弘前大学のルート測定で、3月16日は汚染されていませんでしたが、4月11日に汚染されていました。一関が汚染されたのは19時ころだったことがCOACHの傘からわかります。そのあと風は南に回りました。

20日23時ころ原発を出発した放射性霧は、6m/s(時速20キロ)で太平洋上を南に進みました。そして翌21日5時に大洗、6時に鉾田を通過して、7時20分に霞ヶ浦上で雨雲と衝突しました。この放射性霧が移動した痕跡は、幅5キロの帯内にあるスギ林がひどく汚染されている現象として、いまでも確認できます。

雨雲と衝突したあとも放射能霧は(雨雲の下層を)南西に向って進み続けて、阿見・守谷・柏の地表に、放射性物質を含んだ雨として落下しました。9時には東京新宿に達しました。

21日から23日までの3日間、関東地方に強い雨が断続的に降りました。首都圏東部に見られる中程度の汚染はこのとき生じたものです。

ここで説明した汚染の日時は、原発で起こった爆発の日時と合いません。1号機は3月12日15時36分に、3号機は3月14日11時01分に爆発しました。しかし原発から大量の放射性物質が漏れたのはその瞬間ではありませんでした。放射性物質が大気中に出たタイミングは、原子炉で複数回生じた圧力低下とよく符合します。3月12日は1号機、15日は2号機、21日は3号機で圧力低下がありました。

2011年3月事故によって福島第一原発から放出されたセシウム合計は1京2000兆ベクレルです。3月12日が5%、15日が60%、20日が15%、21-23日が20%を占めます。

(早川由紀夫、2013年3月30日)


・「放射能雲」を「放射性霧」に置き換えました。(2013年4月14日)
・「放射性霧」を「放射能霧」に置き換えました。気象学の専門用としてすでにある放射霧と混同されないためです。(2013年4月25日)

コメント

山木屋から本宮市、郡山市方向の汚染

津島は3月15日昼頃にはひどく汚染されていたと思います。福島県が114号を福島市から浪江方向に移動しながら川俣町の山木屋地区で折り返した計測では14:20台に>30μの計測限界を超える値を記録しています。
http://www.meti.go.jp/press/2011/06/20110603019/20110603019-2.pdf
福島県は3月15日午後に国道349号を南下しながら計測し、15時台に川俣トンネル出口から二本松市(道の駅(ふくしま東和))までの区間で>10μの値を記録しています。
理研/KEKが高速道路上で計測した東北道本宮IC(15:11 5.46)から磐越道郡山東IC(15:25 9.2)の>5μのエリアに流れたと思われます。

雲・霧の語を使うことについて

放射能雲にしても放射能霧にしても、既存の定着した語を使うのはどうなんでしょうかねぇ。
気象学的には雲も霧も同じ空気中の水滴ですので、なにか液体の水分の存在を強く想起させてしまいます。

水滴に出会わない状態の「放射能ダストを含む空気」(とりあえずそのように呼んでおく)と、雲や霧に取り込まれた後のそれとは、汚染沈着に対する効果が大きく違うと考えていますがいかがでしょうか。

  • 2013/04/18(木) 22:27:59 |
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伝える側の工夫は自由では?

気象学は、太古から存在する気象現象を相手にするものですが、311以前「放射能ダストを含む空気」というものは概念そのものが否定されていたわけで、ならばその新しい概念に「名前」をつけなきゃならない…ということで、早川先生は「それ」をひとまず「雲」と呼ぶことにした…ということでは?
でも私も含めて一般人が「雲」と聞くと、最低でも500m~高いものだと数千mというイメージを持つかも…そこで改めて「霧」と聞くと、地表近くにモヤっとあって、地表を吹く風で音もなく流されていく…その方が「それ」のイメージに近いような気がしますし、いずれにしてもこれは「伝える側の工夫」なのですから、伝える側の自由ではないでしょうか?
伝え方が良い悪いではなく、聞く側としては、すでに「それ」が水の粒子などではなく、雨で叩き落された忌まわしき小さな粒であることは、誰もが、ある程度は知っているはずです。
もちろん「ダストの方がイメージしやすい」という人がいても構わないし、その言葉で会話する人がいても正しい概念を交換しているなら何の問題もないと思いますが、部屋の中のホコリが陽の光に照らされてキラキラしているのを見ると、これが放射性物質だったら…と怖くなります。そういう危機感を演出する目的なら「ダスト」も言いえて妙かも知れませんね。

  • 2013/04/23(火) 13:22:14 |
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読み手がどんな層かによりますが

まあそう(伝える側の自由)なのですが、早川先生は「専門用語を(他分野の専門家が)使うときにも可能な限り正しく使え」とおっしゃるほうではないかと思うので。

以前、「ウェザリング」という言葉をよくわからない意味(放射能がその場から移動して減少する?)で使っていた人がいましたよね。あれも許容できるのかどうか。私としては使ってもらいたくないレベルでした。「ウェザリング」ではなくて「マスムーブメント」ですので。
# 局所的には「放射能増すムーブメント」

>水の粒子などではなく、雨で叩き落された忌まわしき小さな粒
ところでこの点ですが、奥多摩などの関東山地稜線の汚染度がやや高いのは、3月15日に雲の高度以上のところで沈着していたためではないかと考えられるのですが、どうでしょうか。秩父、小河内など周辺アメダスから見て、この日に降雨はありません。しかし露点温度からみて雲が発生していたとみられる高度が山の高度以下となるので、ひょっとしてまさにウェットな放射能雲or霧によって汚染の度合いが大きくなったのではという仮説です。

  • 2013/04/24(水) 01:04:18 |
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  • 地形屋 #W4yECcMk
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火山灰は「灰」と言っていいのか?

スレッドの趣旨とずれ始めているような気もしますが、たとえば木や草などを燃やした後に残る灰・・・この「灰」という語も「雲」や「霧」と同じくらい古くからあったと思います。
そして火山から吹き出た火山灰・・・この「火山灰」という語もまた、既に定着しています。
でも火山灰は、木を燃やしたあとに残る灰などとはまったく別物で、物質としては鉱物むしろガラスと呼ぶべきもの・・・こうした誤解(無関心)は、まさに「灰」という文字に因ると思いますが、それでも「火山灰」で通用しています。
語の概念は、けして定着などせず変化してもよいものだと私は思います、ひと一人生きている間の変化は小さいので、あまり問題にならないだけで。
いずれにしても早川先生がご自身の表現に「雲」や「霧」という語を使ったということについて、私は違和感を覚えません。

むしろ・・・

このスレッドが取り上げているのは3月12~23日・・・事故直後で、まだヨウ素が消えていない・・・とされている段階です。
「地形屋」さまがおっしゃるところの「水滴に出会わない状態」と「雲や霧に取り込まれた後」での「汚染沈着の違い」・・・これらの語句の印象から、「地形屋」さまは放射性物質の衣服や皮膚への付着・水源や耕作地への沈降に関心を寄せられているような印象を私は持ちますが(それこそ、この7文字だけでは誤解は避けられないかも知れませんが)、私は、この3月12~23日の段階では、「付着」や「沈降」よりも、空気中に漂っていた放射性物質の「吸引」こそ命運を分けたと考えています。
私は3.11直後から10日間ほど、岩手県内陸部にある自宅に家族と篭城しましたが、窓ガラス越しに見る上空の雲が西から東に流れる様子に「安堵」していた当時の自分を・・・今は「間違ったかも知れない」と思い出します。
いずれ12日の女川~盛岡、15日のいわき~福島中通り~北関東、20日の宮城~一関、21~23日の首都圏東部・・・そんな中で我々は情報もなく右も左も分からず・・・霧の中にいた・・・その意味でも「放射性霧」という語は、これ以上に適切な表現はないと思います。
早川先生が「放射能雲」という語を「放射性霧」という語に替えられたことには、表現者としての誠実さを感じます。

>>水の粒子などではなく、雨で叩き落された忌まわしき小さな粒
>ところでこの点ですが(中略)雲の高度以上のところで沈着(中略)どうでしょうか。
・・・私の書いた文章を引いて「この点ですが」の意図するものが分かりませんが、たとえば雲の上で雨に当たる・・・これは「山」をやっていらっしゃる方ならたいていご経験があると思います。
山歩きの経験のない方を誘うときには、面倒なので「雨カッパ持ってきてね」などと言ったりもしますが、あの「雲の上で雨に当たる」という状況が、「雲の高度以上」に「露点温度からみて雲が発生していた」という『地形屋』さまの仮説に該当するのかどうか、私には分かりませんし、あるいはそれを「雨」や「霧」という語で表すことの是非も、私には判断できません。
いずれにせよ、誰かの言葉や表現方法について、許容できない、使ってもらいたくない…と思っても、私のような凡人には、それらを無視するくらいしか考えつきませんし、せいぜい出来るのは・・・たとえばMr.100mSvの罷免嘆願書や大飯原発停止嘆願書に署名する…くらいでしょうか。
もちろん、そうした凡人の蒙を啓かねばならない・・・と、早川先生のような方が、あるいはタイムリーな情報を提供してくれるブログが、立ち上がるかも(もう立ち上がっているかも)知れない、そのときは是非その人物やブログを、ここで紹介して頂きたいとも思います。

昼飯の合間に書いた乱文でしたが、少し早い晩飯を食べながら修正しました…

  • 2013/04/24(水) 12:25:38 |
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  • さいとう #lgzoY2l6
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とりあえず先コメント

↑お書き換えになって承認待ち状態のようですが、読んであるので先にコメントします。

既に述べた乾湿と汚染プロセスのこともありますが、私が最も気になっているのは、やはり気象用語の「放射霧」との混同なんですよね。いくつかの気象用語は専門性の高い言葉というわけではなく、天気予報で一般人が日常よく接します。
百歩譲って「放射性霧」ではなく「放射能霧」でしょうね。「性」という漢字はたいてい省略可能で、その場合全く区別が無くなります。

一般人やマスコミは、文学的・情緒的言葉を使うのも自由です。しかし科学のある分野の専門家は、少なくとも近縁分野の用語くらいは考慮して、過不足のない言葉を選ぶことが、専門家として「誠実」なのではないでしょうか。

科学的・社会的事象に関しての、マスコミや出版社の言葉選びの不誠実さをよく目にすることが多い中で、この誠実さはあって欲しいです。

  • 2013/04/24(水) 19:23:43 |
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  • 地形屋 #W4yECcMk
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放射能霧にします。

気象学に放射霧なる専門用語があることは、4月10日に気付いていました。
https://twitter.com/HayakawaYukio/status/321897359971848193

おっしゃるとおり紛らわしいので、放射性霧を放射能霧に再度変更します。英語のradioactive fogにふさわしい日本語は、放射性霧でなくて放射能霧のような気がします。

  • 2013/04/25(木) 05:05:22 |
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  • 早川由紀夫 #eWKQhjJU
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