早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

富士宝永スコリアの遠方での厚さ

富士山は1707年の噴火で、黒い軽石であるスコリアを山麓には村が埋まるほど厚く堆積させました。さて、遠方ではどれくらい積もったのでしょうか?

ここでは便宜上、横浜駅を基準に考えることにします。

内閣府の「中間報告」(2002年6月)に掲載された地図によると、横浜駅の積灰量は16センチだったと読み取れます。

この図は「最終報告」(2005年7月)に掲載されませんでしたが、その前の2004年6月に富士山火山防災協議会が公表した防災マップの中に、「宝永噴火(1707年)時の実績の降灰分布」として盛り込まれました。

内閣府の「最終報告」には、このマップのかわりに「降灰の影響がおよぶ可能性の高い範囲」と題した図が掲載されました。それは宝永噴火が春夏秋冬のいろいろな風条件で発生した場合を計算して足し合わせて表現したマップだとみられます。横浜駅には10センチの積灰があると表現されています。

国の火山防災を担う内閣府が発表した上の図にはどれも、出典や情報提供者の名前が記されていません(一方、写真には提供者名が記されています)。この情報を受け取った一般社会は、富士宝永スコリアの分布の決定版は内閣府が著作権をもつこれであると認識せざるをえないし、内閣府も、国民がそう認識してこの図が社会合意となることを意図したものとみられます。

したがって民間企業が富士山からの降灰の対策をとろうとするときは、この内閣府の図を基礎データとして用いざるをえません。そうすることが社会の構成員に課されているといってもよいでしょう。

ここで注意しておくべきことがあります。内閣府の図は富士山最大級の宝永噴火をモデルとしたものです。富士山はいままで、宝永噴火よりずっと小さい噴火を何百回も何千回も繰り返してきました。したがって、富士山から発生する次の噴火は、宝永噴火にもとづいて作成された積灰予測図よりずっと軽微な被害しか与えないだろうと予想できます。宝永噴火の力強い印象に引っ張られてはいけません。宝永噴火と同じ規模の積灰が起こる可能性を否定できませんが、そうなる確率はとても小さい。高確率で発生が見込まれる次の富士山噴火は、宝永噴火の1/100あるいは1/1000程度です。

学界では、富士宝永スコリアが横浜駅に降り積もった厚さを見積もるときの基礎資料として次が存在します。

・町田洋・新井房夫(1992)『火山灰アトラス』(東大出版会)
初版の128ページの図を読むと、横浜駅で5センチ。

・宮地直道(1993)富士火山1707年噴火の推移と噴出物の特徴、文部省科学研究費重点領域研究「火山災害の規模と特性」 (研究代表者 荒牧重雄)、111-119
これに掲載された図によると、横浜駅で16センチ。

ただしどちらも等厚線だけしか呈示していません。線を引く根拠となった野外の測定値はどちらにも公表されていませんが、内閣府が採用した宝永噴火による遠方への積灰量は過大である可能性があります。これは、学界できちんと検証されるべきことがらです。

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