早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

乗鞍岳

乗鞍岳の自然誌 1993.9.1

1993.8.28/29に乗鞍岳を訪れた.台風一過の晴天に恵まれて楽しく観察することができた.

アプローチ 中央道松本インターチェンジから1時間(40km)で乗鞍東麓の鈴蘭(海抜1500m)につく.ペンションなどの宿泊設備が豊富.さらに30分のドライブで山頂駐車場畳平(海抜2700m)につく.

火山の配列 南から北へ剣ケ峰,摩利支天岳,恵比須岳,四ツ岳の順に並ぶ.四ツ岳を乗鞍火山に含めるのならば,さらに北につづくアカンダナ山と焼岳もそれに含めていいかもしれない.北よりの後三者はいずれも溶岩ドームである.南よりの前三者は山頂に直径500~800mの火口をもつ火山錐だ.

地形からわかる新旧関係 もっとも新しいのは,権現池がある剣ケ峰の火口から西へ3.7km流れ下っている権現池溶岩流である.左右の溶岩堤防が権現池までつづいていて,そこから溢れだしたことに疑いの余地がない.

次に新しいのは,剣ケ峰から四方に流れ下っている溶岩流(五ノ池,乗鞍高原など)だ.肩の小屋はこの溶岩流の堤防上にある.このときに剣ケ峰の火山錐が形成されたらしい.南東1kmのところにある高天ケ原はこのときの噴火で火の泉をあびたらしく,丸っこい平坦な山頂をなす.崩壊地の断面に火の泉の堆積物である溶結降下堆積物の断面が観察できる.恵比須岳から西北西に5.5km流れ下った溶岩流もこれとおなじくらい新しい.四ツ岳から北へ2km流れた溶岩流も新しい.

一方,富士見岳と里見岳は変質作用をうけた古い溶岩からなっている.桔梗ケ原の平坦面をつくる溶岩流もこれと同じくらいの年代だろう.四ツ岳をとりまく硫黄岳,烏帽子岳,猫岳も同様に古い.これら古い火山体は随所で大規模崩壊を起こして馬蹄型地形をいくつも見せている.崩壊によってできた岩なだれ堆積物に特徴的な流れ山地形が,西側では,蛇出谷と布引滝付近に認められる.東側の鈴蘭から中平までに認められる平坦面もこうしてできた岩なだれ堆積面ではないか.

堆積物断面からわかる噴火史 剣ケ峰の東斜面のうち,溶岩からなる凸地形以外の表面にはスコリアが厚く堆積している.黒いスコリア層の下に水冷を受けた茶色いスコリアがある.その中にはパン皮状にヒビ割れたガラス質岩塊がたくさん含まれる.このスコリア堆積物は位ケ原の平坦面を厚さ1~2mで覆う.235地点における層序は,ハイマツ/20cmクロボク/18cmローム/25cmピート/130cm位ケ原スコリア/100cm降下粘土/70cmローム/火山砂/赤い乗鞍高原溶岩である.

クロボク・ローム・ピートの堆積速度を1mm/年とみなすと,位ケ原スコリアの年代は630年前と見積られる.ただし,乗鞍高原温泉スキー場リフト下(地点229,海抜1920m)では,このスコリアの上に1mのレスがあるから,この見積りは新しすぎるようだ.地点235の海抜は2540mと高いから,位ケ原スコリアの上の地層の一部が欠けている疑いがつよい.おそらく真の噴火年代は3000年前ころだろう.正確な年代を知るためにはスコリア直上のピートをつかって放射性炭素年代測定することが望まれる.

1mの等層厚線が12km2を覆うことから,このスコリアの体積は0.15km3,質量は7.5 x 1010kg(M3.9)と計算される.スコリアの直下にある降下粘土層の質量もほぼ等量(M3.9)である.このときの噴火で流出したと考えられる権現池溶岩は,平均層厚を20mとみなすと,質量1.1 x 1011kg(M4.0)である.したがって,噴火全体の規模Mは4.4となる.この噴火中には何度もラハールが発生したことが残された堆積物からわかる.それは三本滝を通過して小大野川を下って梓川に流入した.

乗鞍高原溶岩のすぐ上には,厚さ数十cmの火山砂が認められる.これが剣ケ峰火山錐の形成時期を示すテフラだ.位ケ原スコリアまでにレスが平均層厚30cm堆積しているから,その年代は6000年前ころだろう.火山砂やレスに覆われた乗鞍高原溶岩は赤色酸化したブロックが多く,表面に風化被膜は認められない.また,海抜1500mの乗鞍高原でもレスの覆いは1mを超えない.乗鞍高原溶岩と同時に噴火した五ノ池溶岩の地形が新鮮で氷食を受けていないことも,この噴火が完新世に起こったことを示唆する.噴火規模Mは5.1(溶岩4.9,テフラ4.8)である.

宮の原ふきんでロームの下に見られる溶岩塊は風化被膜に覆われていて長い間地表に露出していたことを想像させる.氷期を一度以上経験しているにちがいない.この岩なだれ(?)を起こした山体,すなわち桔梗ケ原溶岩などは十万年以上昔(~30万年前)につくられたのではないか.


まとめ

3ka   M4.4 位ケ原スコリア,権現池溶岩
6ka   M5.1 剣ケ峰火山錐,乗鞍高原溶岩,五ノ池溶岩

    恵比須岳火山錐と溶岩流,四ツ岳溶岩ドーム

~300ka 桔梗ケ原溶岩,高天ケ原,富士見岳,山体崩壊-岩なだれ

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