フクシマで放出されたセシウム137は5600兆ベクレル。チェルノブイリでは6京6000兆ベクレルだったから、その12分の1だ。汚染された土地の面積を地図上で測って同じ計算式で算出した。
表1 ヨウ素とセシウムの放出量比較

表中の6.2は5.6に読み替えてください。その後、再計算して変更しました。

健康被害の発生数は汚染された空間に何人が生活しているかによる。半減期が30年と長いセシウム137だけで比較すると、チェルノブイリ 555 kBq/m2 とフクシマ 4 uSv/h がほぼ同じ汚染になる。同じ汚染空間に住む人口を集計するとほぼ同じであることがわかる。チェルノブイリとフクシマの集団被ばく線量はほぼ同じだった。半減期が2年で放射線の強さが2.7倍のセシウム134も含めて比較すると、初めの1年間はフクシマがチェルノブイリよりひどく汚染されていたとさえ言える。
表2 セシウム137の同レベル汚染比較

フクシマとチェルノブイリの放射能汚染の程度はほぼ同じだった。そして、30年前のチェルノブイリで低線量被ばくによる健康被害はなかった。健康被害が出たとする報告はすべて誤認による。いまフクシマで低線量被ばくによる健康被害は出ていない。今後も出ないだろう。ここで健康被害が出ないとは、その国で健康被害がいっさい生じないことを意味しない。平常時に一定確率で発生する病気や障害を超える数の発生が認められないという意味だ。
私自身は、フクシマの汚染をチェルノブイリと比べることに事故直後から没頭した(たとえば、2011年6月18日に発表した放射能汚染地図(改訂版))。遅延なくそれに成功したと自負しているが、評価基準としたチェルノブイリ被害に、残念ながら重大な事実誤認があった。
チェルノブイリから伝えられた健康被害はじつは深刻な過大評価だったと私が確信するに至った最大の根拠は、福島県の子供全員検査でみつかった甲状腺がんは放射線被ばくによるものではなく、精密な超音波検査を何十万人にも実施したからこそみつかったとする判断である。これは私だけの見方ではなく、国も県も認めた公式判断である(参議院予算委員会2016年10月6日環境大臣答弁)。福島県の子供全員検査でみつかった甲状腺がんが放射線由来でないのだから、チェルノブイリでみつかった小児甲状腺がんも放射線由来でない。なぜなら両者の低線量被ばくの程度は同じなのだから。すべて、してはいけない全員検査をしたためにみつけた過剰診断がんである。
汚染の程度は同じでも、フクシマでは、チェルノブイリと違って被ばくを避ける処置が適切に行われたから住民被ばくは桁違いに少ないと主張する人がいるかもしれない。そういう人には、放射能霧が向かう先をシミュレーションできるSPEEDIを使わなかったこと、飯舘村からの避難が事故後1ヵ月もたった2011年4月22日だったこと、水田土壌の汚染を測ることなく稲を作付して 500 Bq/kg を超える米を収穫したこと、首都圏東部の汚染が事故後2ヵ月たった2011年5月になっても新聞記事でデマ扱いされたことなどを思い出してもらおう。被ばくを避けるための適切な政策がフクシマ事故直後に行われたとは、とても言えない。