御嶽山の2014年9月27日噴火で、山頂付近にいた登山者63人が死亡した。噴火警報を出して噴火警戒レベルを2に上げなかった気象庁に過失があったかどうかを争う裁判が、いま長野地裁松本支部で進行中である。裁判では、過失がいつどこにあったかを特定することが焦点となる。
噴火の2週間前、1日の地震数が50回を超えた日が2日続いた。そのとき気象庁がレベル2に上げるべきだったが原告の主張だ。レベル2に上げるためには噴火警報が必要となる。気象庁には噴火警戒レベルの判定基準が各火山についてあって、御嶽山の場合はレベル2に上げる基準のひとつに、1日の地震回数が50回を超えたとき、がある。被告である気象庁は、他の条件も加味した総合判断によってレベル2に上げるのを見合わせたことに過失はなかったと弁明している。
1日の地震が50回を超えたときレベル2に上げなかったことを気象庁の過失とみなすことがはたしてできるだろうか。私の考えは否定的だ。気象庁のような官庁で噴火警戒レベルを上げ下げするには上司の決済が必要となる。この案件の決済権は火山課長にあったとみられる。内規で定めた判定基準を満たしても、火山課長が総合的に判断してその日レベル2に上げなかったことに過失があったとまでは言えない。そこでは正当な行政がなされたとみる。
では、気象庁に過失はなかったのだろうか。いや、あった。気象業務法13条は、一般の利用に適合する噴火警報を出すことを気象庁に課している。結果的に死者63人を出したのだから、その前に噴火警報を出さなかった不作為が一般の利用に適合していたとはとうてい言えない。
少なくとも前日の26日までにレベル2に上げて、現場への立ち入りを禁じるよう地元市町村を促す責務が気象庁にはあった。気象庁の過失は、2014年9月26日までに御嶽山の噴火警戒レベルを2に上げなかった不作為にある。結果的に63人が死亡したからこそ、気象庁に過失がある。
どんなに密に観測しようとも、現在の火山学では噴火警報を一般の利用に適合するようには出せない。だから、2週間前に立てた予想が外れたからといって、そこに過失があったとは言えない。しかし法律は、それを出せと気象庁に課している。できないことを気象庁に課しているいまの法律が不適切なのである。いかに不適切な法律であろうとも、司法はそれに即した判断を下すことになっている。
▼2014年
9月10日 地震52回
9月11日 地震85回
9月14日 低周波地震
9月27日 噴火
▼2017年
1月25日 提訴
3月15日 口頭弁論1
6月15日
7月19日
10月10日
12月14日
▼2018年
2月14日
(裁判長交代)
4月25日
6月20日
9月12日
11月14日 口頭弁論10
▼2019年
2月6日
6月12日
10月8日
12月4日 口頭弁論14
▼2020年
2月5日
3月18日