早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

噴火警戒レベル表 浅間山

噴火警戒レベルを決める基準がわからないと11月30日に書いたが、きょう気象庁のページを見たら、各火山の火山活動度レベル表が噴火警戒レベル表に置き換わっていた。浅間山について、新旧の記述を比較してみた。新レベル表は旧レベル表にあった誤りと不適当をおおむね修復しているから、全体的にみて前進したと評価できる。ただし、改善すべき部分がまだ残っている。

レベル5
1783年天明噴火を想定しているのは旧レベル表と変わりない。今回、事例の中に「吾妻泥流」という聞きなれない語が混じった。吾妻川に流入したあとの鎌原土石なだれをこの語で呼ぶ人がいたが、それに習ったのだろうか。二つ前に「吾妻火砕流」を書きながらこの語を表中に含めたのは、混同されて誤解されることを気象庁がまるで望んでいるかのようだ。(追記1)

レベル4
旧レベル表では、1950年9月23日の噴火と1973年の噴火が過去の事例として挙げられていたが、新レベル表ではどちらも削除された。レベル5と同じ「天仁天明クラス」噴火の発生が、低い確率で予見される状態をいうことに変更になった。
 なお1108年噴火の主要部分は天仁元年ではなく嘉承三年に起こったから、それを天仁噴火と呼ぶのは適切でない。元号を冠するなら嘉承噴火と呼ぶべきだ。(追記2)

レベル3
強いブルカノ式爆発を想定している。過去事例として挙げられた「噴石」の到達距離は、2004年9月1日2.7キロ、1973年2月1日約2キロ、1958年11月10日約3キロである。1973年噴火は旧レベル表ではレベル4事例だったが、新レベル表ではレベル3事例に格下げになった。旧レベル4で事例として挙げられた1950年9月23日の8キロは書いてない。これが事例として不適当だったことに気象庁は気づいたようだ。
 旧レベル表では 「山頂火口から2~3km程度以内まで、噴石を飛散」としていたが、新レベル表では「4km以内に噴石」として、危険半径を3キロから4キロに拡大した。これは、歓迎すべき修正である。

レベル2
ここで2004年の事例を書くなら、「7月下旬」とではなく日付まで明記して「7月31日」と書くべきだ。7月20日にレベル2からレベル1に下げたが、11日後の7月31日に再びレベル2に引き上げたのだから。

レベル1
「2007年12月現在、山頂火口から500m以内規制中」と書くが、これは小諸市の規制内容である。軽井沢町はこれよりはるかに広い範囲を立ち入り禁止にしている。


注1)ここでいう噴石とは、主として風の影響を受けずに飛散する大きさのものとする。


不十分な定義だが、1950年9月23日の8キロを事例から削除したのをみると、気象庁は「噴石」の語を、弾道起動を描いて空中を飛行する火山弾に限ったようだ。そのサイズの下限はおよそ10センチになる。これは、浅間山で明治以来使ってきたもともとの定義に沿った使い方だ。平成の時代に気象庁が一度この定義を変えようとしたが、考え直して明治の定義を使うことにしたと、火山研究史に記録されることになった。用語は、それがきちんと定義されて使われれば解釈可能だから、気象庁の「噴石」はいちおう解釈可能なものになった。しかしこのような誤解にまみれたあいまいな用語は、この場合はとくに生命にかかわることがらだけに、早晩もっとよい用語に置き換えられるべきだ。(追記3)

注2)表中にある火口からの距離はいずれも概ねの数値を意味する。


なんといい加減な発言だろう。距離はきちんと計測できるパラメータだ。そして防災においてもっとも重要なパラメータのひとつだ。責任を回避したい思惑が透けて見えて、悲しい。また、起点を火口中心とするのか火口縁とするのかを明記すべきだ。前者が望ましい。

注4)中噴火とは、山頂火口から概ね4km以内に噴石飛散させる噴火とする(稀に噴石が概ね4kmをこえることがある)。
注5)小噴火とは、山頂火口から概ね2km以内に噴石飛散させる噴火とする。


この定義だと、小噴火は中噴火でもある。気象庁は、もっときちんとした日本語を書くべきだ。(追記4)
 

追記1
地質学者は、地層に地名を冠した名前をつけてひとつ一つ区別する。同じ火山で同じ地名を別の地層に使うことは注意深く避けてきた。しかしこの場合は、同じ火山どころか同じ年の噴火が残した二つの地層に同じ地名を冠している。慣習を軽んじているだけでなく、合理性を欠いた愚かな記述だ。

追記2 1108年噴火の経緯
8月29日(七月二十一日) Bスコリア下部
8月30日 追分火砕流
9月9日(八月三日) 鳥羽天皇即位。嘉承を天仁に改元
9月26日から10月11日まで(八月十八日から九月三日まで) Bスコリア上部

追記3
「噴石」を「火山弾」で置き換えるのがよい。

追記4
噴火の大きさを大中小の一元的にしか記述しない気象庁の方式は、今回も改良されることがなかった。気象庁は別部局では、大型の強い台風などと呼んで、二元的記述を導入している。噴火も大中小と強弱の二元記述にすべきだ。大中小は噴出量(規模)をいう。強弱は噴出率(強度)をいう。浅間山でしばしばみられるブルカノ式爆発は、噴出量は少ないが、爆発力がたいへん強くて火山弾を遠くまでまき散らす。危険な噴火だ。台風表現に習えば、小型だが猛烈な噴火だ。気象庁がいま浅間山で使っている中噴火・小噴火はブルカノ式爆発のこの危険性を住民に正しく伝達しているかどうか疑わしい。情報伝達の工夫を気象庁はもっとすべきだ。

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