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早川由紀夫の火山ブログ

Yukio Hayakawa's Volcano Blog

噴火警報の安売り

火山のレベル2は噴火警報として伝達される。そのとき気象庁が期待する住民の行動は「通常の生活」だという。それなら警報にする意味がない。噴火予報と呼んだほうがよい。

過去に雲仙岳や三宅島などで長期間継続したことがあるが、レベル2あるいは3の火山の現状を伝える情報を毎日出すことになったとき、それは噴火警報として出されるのだろうか。もしそうなら警報の安売りにつながる。気象庁は、警告をするだけでなく、火山のいまの状態を迅速かつていねいにわかりやすく伝えることもしてほしい。

以前の火山観測情報は、住民に情報をきめこまかく伝えるシステムとして優れていた。しかし今回の改訂で廃止されてしまった。同様のカテゴリーを復活させる必要性を強く感じる。このままでは、警報を毎日出すわけにはいかないから情報の発表回数を減らす、などといったとんまなことがほんとうに起こりそうだ。

火口周辺規制を気象庁が決めるのは、おかしい

気象庁の火山ページにある地図には、現在の噴火警報発表状況について、次のように書いてある。

三宅島 (火口周辺危険)
桜島 噴火警戒レベル2 (火口周辺規制)
薩摩硫黄島 噴火警戒レベル2 (火口周辺規制)
口永良部時間 噴火警戒レベル2 (火口周辺規制)
諏訪瀬島 噴火警戒レベル2 (火口周辺規制)


火口周辺危険と火口周辺規制の二種類がある。三宅島は警戒レベルをまだ導入してない火山だから、火口周辺規制ではなく火口周辺危険の記述にとどまるというのが気象庁の説明だ。

火口周辺危険の表記は、よい。しかし火口周辺規制の表記はよくない。この表記だと、規制している主体は気象庁だとしか読めない。警戒レベルを導入した火山についても、火口周辺規制ではなく火口周辺危険と書くべきだ。規制の権限を法律によって付与されているのは地元自治体の長であって、気象庁ではない。この図をみると、あたかも気象庁にその権限があるかのようにみえてしまう。

このような誤解されやすい地図が掲げられるのは、そもそも噴火警戒レベルに付されたキーワードが不適切だからだ。避難、避難準備、規制といった防災対応アクションを意味する語を、気象庁はみずからの発意として使うべきではない。気象庁は、防災対応への口出しをやめ、火山の危険を評価するだけに留まるべきだ。リスク学の言葉で言えば、気象庁がすべきはリスク評価までだ。リスク管理に踏み込んではならない。リスク管理は地元自治体の長が行うと災害対策基本法が明確に規定している。現在の気象庁火山行政は、この法律に抵触している。

火山では注意報を廃して警報に一本化

私は6月9日に次のように書いた。「今回、「噴火警戒レベル」と命名したことによって、 (略) 気象庁が発する警戒の二文字が、今後はとても軽く扱われてしまうだろう」。その後の気象庁発表を読むと、どうやら気象庁は火山監視において注意報を全廃したようにみえる。これからは噴火予報と噴火警報の二本立てでやるらしい。よく考えてみるとこの方式は、火山に限っては、わかりやすくてよいようだ。

まず気象情報を考えよう。これは警報と注意報と(単なる)予報の三段階からなる。警報が出された地域の周辺には注意報が出されて注意喚起がおこなわれる。気象現象は危険の発生源が移動するから、危険範囲も複雑に移動する。毎回異なる。だから、危険への対応をこのように二段階に分けて表示するのはわかりやすくて合理的だ。

しかし火山では危険の発生源が移動しない。火口や谷筋に固定されている。火山の危険は地図の上に等級をつけてあらかじめ示すことができる。だから、危険対応のために警戒と注意の二段階を持ち込むより、警戒だけを設けて事態の変化に応じて警戒すべき地域を拡大したり縮小したりしたほうがわかりやすい。警戒地域の外側では、もちろん注意する。これは自明だ。噴火警戒レベル3が出たら、レベル3地域は警戒するが、その外側のレベル4地域は注意する。

もし上記のような理解と対応を社会に普及しようと気象庁が考えるなら、噴火警戒レベルひとつ一つに対応して警戒すべき領域を各火山ごとに図にして示す必要がある。これは、地元自治体に任せて済ませられるような簡単な作業ではない。まず気象庁が原案を示し、それを社会総出で知恵を振り絞って修正して、最終的には合議で決めるべきことだ。

噴火警戒レベル表(3) 大規模噴火の定義

気象庁は、大規模噴火・中規模噴火・小規模噴火の語を火山ごとに異なる定義で使っている。

樽前山
注2)大規模噴火とは、噴煙が1万m以上上がり、火砕流が広範囲に流下し、それに伴う融雪型泥流が発生するような噴火である。
注3)中規模噴火とは、噴煙が数千mまで上がり、噴石が火口から2~3kmまで飛散し、小規模な火砕流やそれに伴う融雪型泥流が発生するような噴火である。
注4)小規模噴火とは、噴煙が1,000m以下まで上がり、噴石が山頂火口原内外に飛散するような噴火である。


富士山
注2)ここでは、噴火の規模を噴出量により区分し、2~7億m3を大規模噴火、2千万~2億m3を中規模噴火、2百万~2千万m3を小規模噴火とする。なお、富士山では火口周辺のみに影響を及ぼす程度のごく小規模な噴火が発生する場所は現時点で特定されておらず、特定できるのは実際に噴火活動が開始した後と考えられており、今後想定を検討する。


火山によって異なる定義はすみやかに撤回して、すくなくとも日本の火山については同じ基準で大規模噴火・中規模噴火・小規模噴火の語を用いるべきである。

学界での先例に倣って、規模は噴出量を指す言葉とするのがよい。樽前山での使用法を捨て、富士山での使用法に統一するのがよい。樽前山の大中小は、強度の強並弱で表現するのがよいだろう。

なお富士山の注2)には、難点が二つある。規模の単位が体積で表現されている。マグマは地表に噴出すると膨らむ。その膨張率は、溶岩になった場合は数割に留まるが、火山灰になった場合は数倍になる。この差は無視できない。どうしても体積で言いたいなら密度を付すべきである。あるいは溶岩換算とかマグマ換算とかを必ず添える。もし規模を重量で言うことにすれば、このような面倒から開放される。

もうひとつの難点は、「ごく小規模な噴火」が意味するところが不明なことだ。「ごく小規模な噴火」とは「2百万~2千万m3を小規模噴火とする」の中に入るものなのか、それともそれより小さい噴火を言うのか。もし後者なら、「ごく小規模な噴火」も定義するべきだ。

噴火警戒レベルを決める基準がわからない

気象庁は、明日から16火山で噴火警戒レベルを導入する。そして従来の火山活動レベルを廃止するという。火山活動度レベルは、どんな噴火や異常が起こったらどのレベルにするかの基準が各火山ごとに公表されていた。その基準には小さくない問題はあったが、いちおう検証に耐えるシステムだった。たとえば浅間山草津白根山

しかし明日から導入する噴火警戒レベルについて気象庁は、各火山ごとに適用する基準を公表していない。第三者による客観的評価を拒んでいるようにみえる。

火山はひとつ一つ異なる個性をもつ。気象庁は、火山活動度レベルのときと同じように噴火警戒レベルの基準を各火山ごとに公表するべきだ。たとえば浅間山の場合、どんな噴火や異常が発生したらレベル2にするか、レベル3にするか、判断基準をあらかじめ示しておく責任が気象庁にはある。

噴火警報(3)

2000年夏の三宅島を考えてみます。補助金団体に成り下がっていた三宅村には自己決定能力と意思がありませんでした。三宅村は完全に東京都の支配下にありました。さて東京都が何をしたかしなかったか。彼らは、気象庁が緊急火山情報を出さないことを理由に(あるいは気象庁に緊急火山情報を出させないよう画策して)、島民を長いこと避難させませんでした。

結局、9月1日にわけのわからない避難指示に至ったわけですが、もしあれが緊急火山情報ではなく噴火警報体制下だったなら、噴火警報なしに避難指示に進むことはできなかったでしょう。8月29日の火砕流をもってしても、社会の圧力が東京都の権力を打ち負かすまでには至らなかったでしょう。

気象庁から噴火警報が出なければ、住民の生活を苦しめる結果になるに決まっている避難指示を首長がみずからの意志と責任で出すとは思われません。噴火警報が出ないことを最大の理由にして住民を日常生活に引き留めるでしょう。噴火警報なしの避難指示は、実社会では不可能だとみます。こんな重大な判断の岐路となる噴火警報を、ひとり気象庁に任せてよいのでしょうか。

緊急地震速報と火山警戒レベルという、ごく一部の新しい仕組みの導入をもってして、地震噴火の情報伝達システムの全体を支える根幹を安易に変更しようとする今回の改正案に私は賛成できません。緊急地震速報は、通信の速度が地震波の速度よりずっと速いことを利用して、地震波の到来を10秒程度前に予測するものです。社会が長いあいだ期待してきた地震予知とはまったく異なるものです。

火山警戒レベルは、すでにある火山活動度レベルの名前を変えただけのものです。現行の火山活動度レベルの中身はたいへんずさんです。たとえば噴石という用語の使い方をみればわかります。このことはすでに述べたことがありますので、ここでは繰り返しません。火山活動度レベルは実際の火山噴火危機で役に立ったことがないどころか、浅間山の2004年噴火では混乱を招いたやっかいものです。火山警戒レベルへの名称変更に伴って、内容が少しは改善されるのでしょうか。

問題の本質を解決したようにはみえないこれら二つを大きく掲げて、地震と火山の警報が出せるくらいまで自分たちが前進したともし主張するなら、それは噴飯物です。

(この文章は10月4日に書きました。そのときここにも掲示しようかと思いましたが、やめました。しかし、やっぱり掲示することにします。本日少し改変しました。)

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噴火警報(2)

いま元気な火山だけが深刻な噴火災害を起こすのではない。これは、世界的にもよく知られた事実だ。最近では、1991年にフィリピン・ピナツボ火山で起こった噴火がそうである。インドネシア・タンボラ火山で1815年に起こった史上最大の噴火もそうだった。

1000年以上の長い沈黙を破って被害甚大な噴火をした日本の例
(火山、噴火年、犠牲者)
・磐梯山、1888年、461人
・樽前山、1667年、不明だがおそらく多数
・有珠山、1663年、5人(おそらくもっと多い)
・北海道駒ヶ岳、1640年、700人以上

噴火警報は、むしろ長い眠りから覚めたこのような火山にこそ必要だ。

噴火警報

気象庁が気象業務法を改正して噴火警報を出すと、19時のNHKテレビニュースが伝えた。

噴火警報を出すのは限られた火山だけだという。すべての火山が対象ではないのだという。何も限られた火山だけが噴火するわけではないのだが。噴火警報なしに甚大な被害噴火が起こったとき、気象庁はどう責任を取るつもりか。

噴火警報の中に避難などの防災行動を含めるという。災害対策基本法とのすり合わせは十分なのか。

そもそも火山噴火は、噴火してから避難するのでは遅い。火砕流が発生したから情報を出して住民を避難させるのでは間に合わない。火砕流の発生を予見して住民をあらかじめ避難させておく必要がある。大風や大雨を観測して、その進路に対して情報を出す気象警報とは性格がまったく異なる。この性格の違いを無視して噴火警報を気象警報と同列に扱うようなことは、してはならない。

噴火リスクは本質的にあいまいだ。そしてしばしば莫大な被害をもたらす。これは社会全体が総出で対応すべきことがらだ。このようなリスク対応には費用がかかる。その費用を負担するひと全員がリスク対応に関与すべきだ。ひとり気象庁だけがその任にあたる、あるいは気象庁だけにやらせるような仕組みはつくるべきでない。
 
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「火山活動度レベル」から「噴火警戒レベル」へ

気象庁は、現在の「火山活動度レベル」の名称を「噴火警戒レベル」に切り替えると、2007年6月7日に発表した。

2003年10月に気象庁が火山活動度レベルを導入したとき、私は、日本の火山のレベルを気象庁が発表することは大歓迎だが、その名前があまりにもわかりにくい。一般に説明するときに使うにはたいへん不適当だと感じた。私は一貫してこの気象庁火山レベルを「危険レベル」と呼んで紹介してきた。たとえばゑれきてる浅間山(2003年12月)。

今回、気象庁自身が「火山活動度レベル」はわかりにくい名前だと認めた。新しい名称として提案された「噴火警戒レベル」はわかりやすく、一般に説明するときにも使える。

しかし別の問題がある。従来、気象庁はみずからが発表する火山情報文の中で、発表文を見た行政や住民が取るべきアクションのガイドとして、「注意」「警戒」「厳重な警戒」という三つの用語を特別のメッセージをもって使用してきた。たとえば2000年の三宅島噴火では、「厳重な警戒」の文字は最後まで火山情報文の中に現れなかった。それは意図して気象庁がしなかったのだと、その後の研究で明らかになっている。気象庁は、そのとき、「厳重な警戒」が必要だと言わないことによってみずからの意思を社会に実現しようとした。

今回、「噴火警戒レベル」と命名したことによって、警戒の文字がどの火山情報でも使われることになってしまった。火山情報の本文中で「警戒」や「厳重な警戒」を使うとき、それに強い行政メッセージを込めるこれまでの手法は、レベルの名前に警戒を入れてしまったことによって使えなくなった。気象庁が発する警戒の二文字が、今後はとても軽く扱われてしまうだろう。

今回の発表文に添えられた別紙にある次の表示にも注目した。

レベル5(避難)
レベル4(避難準備)
レベル3(注意)
レベル2(火口周辺注意)
レベル1(平常)

レベル4は避難準備、レベル5は避難を意味するという。従来のやり方だったなら、ここには警戒の文字が入るが、レベルの名前で警戒の二文字を使ってしまったから、それができなかったのだろう。そこに代わりに避難の二文字を入れたことは、気象庁が火山監視だけに留まっていないで、防災対応まで踏む込むと宣言したことを意味する。火山麓の住民が避難するかしないかを、これからは気象庁長官が決めることになった。

ただし災害対策基本法は、避難勧告と避難指示は市町村長の専権事項だと定めている(60条)。気象庁長官がその判断を実質的にするしくみが今回できたのだから、法律条文にそれを盛り込む改正作業をすみやかに始めなければならない。
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